ガリ元国連事務総長の死と国連 その「挑戦と挫折」
Japan In-depth / 2016年2月22日 23時0分
しかし期待が失望に変わるのは早かった。ソマリアに続き、ルワンダではツチ族とフツ族の内戦が、旧ユーゴスラビアでも民族紛争が相次ぎ勃発、PKOは困難を極めるが、常任理事国もガリ氏自身ももはや平和執行は断念し、パクスUNは幻想に終わった。PKOは従来型に戻る一方、平和執行はいわゆる有志連合による多国籍軍という形で、その後の湾岸、アフガン、イラク戦争などに対処して行ったのはご存じの通りだ。
ガリ氏は再任されなかった近年で唯一の事務総長だ。2期10年が不文律となってきた中で異例であり、そのことがガリ氏をガリ氏らしくしている。前任のペレス・デクエヤルも後任のコフィ・アナン、そして潘基文も皆再任されている。理由は米国が再任に拒否権を行使したからである。
ソマリアの失敗に始まり、旧ユーゴ紛争でも、イスラエル問題でも手法や方針をめぐってガリ氏と米国は対立した。米国というポスト冷戦期の超大国と、超大国も特別視しないという事務総長としての矜持が衝突したとも言える。
ニューヨーク特派員時代、私はガリ氏にインタビューしたことがある。質問の前置きに「国連はアメリカを必要としている」と言うと、ガリ氏は眼鏡越しにギロリと厳しい目を向け、続けて私が「しかしアメリカも国連を必要としている」と言うと、ニッコリと頷いたのが印象的だった。当時、米国と事務総長の対立は誰の目にも明らかであり、しかし両者が歩み寄らなければ国連は機能しないのではないかというのが私の質問の真意だった。
もちろん質問するのは簡単だが、答えは容易ではない。しかし米国と事務総長ひいては国連がどのような関係を構築するかに国連の浮沈がかかっていると言っても過言でないし、国際紛争の観点からも永遠の課題であると思う。
対欧米では厳しかったガリ氏だが、日本には好意的で強く期待した。安保理常任理事国入りにも、「(加盟国に中立である)事務総長の立場ではなく、個人として」と敢えて前置きし、「日本が単独なら可能だ」と手を上げるよう強く勧めたという。肝心の日本は手も声も出さなかった。日本外交最大の失敗のひとつではないかと今にして思う。
ガリ氏の轍を踏むまいと考えたのか、潘氏は米国との対立を回避し、再任はされた。しかしシリア、イラク、スーダン、アフガン、ウクライナ…世界のどこにも事務総長のイニシアチブを見出すのは難しい。すでに始まっている次期事務総長選びに、ガリ氏の「挑戦と挫折」を再考することは決して意味のないことではない。
トップ画像:Claude Truong-Ngoc / Wikimedia Commons - cc-by-sa-3.0 Boutros Boutros-Ghali and Moshe Dayan at Council of Europe in Strasbourg, (october 10. 1979)
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