シャープが鴻海を選ぶ真の理由
Japan In-depth / 2016年2月25日 14時33分
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
決算の季節がやってきた。企業にとっても、社員にとっても悲喜交々の時期である。決算の数字は会社の成績であり、働くサラリーマンや役員にとっては最も気になる人事に結びつく。16年度は、上場企業全体の平均で3%弱程度の増益というから先進国企業群としては、まずまずとみるべきか。日本全体の実質成長率は、このところ1プラス、マイナス2%、つまりどんなに高くてもせいぜい3%、悪ければマイナス1%あたりが普通になってきているので、よほどの大当たり製品か、ベンチャーの成功物語でもない限りかつてのような2ケタ増益を出せる企業はほとんどない。
そんな今年の3月決算の話題はシャープの行方だった。日本の高度成長を支えてきた自動車と家電のうち、自動車は一時の勢いをなくしているものの、まだ海外分野で頑張っている。だが家電は三洋電機が倒れ、栄光のソニーもリストラ続きだし、中堅の星だったシャープまでが行き詰まり再建方法でもがいた。一時は政府肝いりの官民ファンド産業革新機構(勝又幹英社長)が支援に前向きの姿勢をみせ、液晶事業再建や他社を含めた白物家電の統合、出資にも意欲をみせた。
ところが、2月に入って突然、電子機器の受託製造大手、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が6000億円を超える出資を申し出たことがわかり、シャープの姿勢は一挙に鴻海に傾いた。鴻海はシャープブランドを維持したうえ、事業売却せず役員、社員の雇用も維持するという好条件。産業革新機構側はシャープ本体に3000億円超を出資したうえで主力銀行2行に3500億円程度の債権放棄を受け入れてもらうが、役員などは退陣させ経営陣を交代させる意向といわれていた。金額的には産業革新機構側も相当踏み込んでいる。
シャープ経営陣にとっては、鴻海の完全子会社になるものの、事業売却をせず役員や社員の雇用は当面保障するという台湾側の申し出は魅力的だったに違いない。産業革新機構側からすれば、経営の失敗の責任を役員にとってもらうことは当然ながら、シャープの液晶技術などが海外に流れることを防ぐという民族主義的な大義名分もあったようだ。
――独自商品開発で伸びてきたシャープ――
シャープは、大阪に本社を置く旧早川電機がシャープペンシルや国産初のラジオ、電卓を開発するなど中堅ながら独自の商品開発で名を馳せてきた企業だった。さらに液晶TVの将来性にいち早く注目し1969年から研究開発に着手。三重県の亀山工場で生産した「アクオス」ブランドで一躍世界に名を売った。高付加価値商品で稼ぎ頭となったため、堺市に増産工場を建設したりしたが、他の家電メーカーもたちまち追いつき安値競争に走らざる得なくなっていった。
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