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ミサイル防衛は意味がない(下)

Japan In-depth / 2016年2月25日 18時0分

ミサイル防衛は意味がない(下)


文谷数重(軍事専門誌ライター)


■THAAD

具体的に検討されているTHAADに至っては、さらに導入の意味は薄い。これはイージス艦に搭載したSM-3とは違う。日本に飛んで来るミサイルを撃ち落とすのではない。THAADはパトリオットPAC-3のように、SM-3で撃ち漏らしたミサイルを命中寸前に撃ち落とすものにすぎないためだ。

もちろん、その射程はPAC-3より広い。配置地区から100-200km程度、乱暴に言えば直径300kmをカバーできるようになっている。

だが、PAC-3と二重で装備してもあまり意味はない。PAC-3で撃ち落とせる分を先に落とせる程度である。迎撃の確実性は増加するが、費用対効果を考慮すれば、SM-3を増勢したほうがよい。

THAAD整備はある意味、雨漏り対策で水を受けるバケツの数を増やすようなものだ。その金があるのなら、さきに屋根を直したほうがよい。これはSM-3搭載艦をさらに増やすことがそれにあたる。あるいは、雨をふらさないように努力すべきでもある。これは敵地攻撃能力である。北朝鮮のミサイルを発射寸前に破壊できれば、日本へのミサイル攻撃はない。

この点でも、ミサイル防衛への追加投資は意味を持たないのである。

 

■ 空襲保険でよいのではないか?

ミサイル防衛に予算を追加してもあまり効果は見込めない。基本的に北朝鮮はミサイルを発射しない。また、THAAD導入によりミサイル防衛システムを強化しても、基本的には対症療法にすぎない。飽和攻撃や撃ち漏らしの可能性は除去できない。

実際に期待している効果も気休めに過ぎない。ミサイル防衛整備の理由は「もし、ミサイル攻撃があった場合にどうなるか?」といった国民の不安があり、それを鎮めるためのものであるためだ。防衛当局としても、本当に北朝鮮がミサイル攻撃をすると考えているわけでもない。

気休めであれば、むしろ保護・補償制度で済ませたほうがよい。

これは被害時の被害極限や補償といった手段でミサイル対策とするものだ。ミサイル攻撃の罹災者には消防防災組織により迅速な救援保護を行い、怪我や死亡、財産損失は保障する。それにより「ミサイル攻撃があっても、保護・補償される」といった安心感を国民に与え、不安を減少させることができる。

その実例はある。戦前・戦時中に日本が作った空襲罹災者保護制度がそれだ。保護に当たる戦時災害保護法と、補償にあたる戦争保険臨時措置法・戦争死亡傷害保険法で国民不安をカバーしょうとしたものだ。ちなみに空襲被害の補償制度は、ドイツや英国も制度化している。ドイツは国家補償であり、英国は日本同様に保険制度とされている。

通常、災害や戦争は保険の対象外ではあるが、政府が再保険で問題はクリアできる。今の地震保険は実際に再保険しているし、紛争地域での商船運航でも政府再保険は使われている。同じやり方で問題はない。

繰り返すが、ミサイル防衛の本質は気休めである。そして、今一応の防衛体制は準備されている。その上での施策であれば、効果が逓減するミサイル防衛強化に多額の予算をつぎ込むよりも、保護・保障制度の準備で安く済ませたほうがよい。

特にミサイル防衛以外には役に立たたないTHAAD導入は、予算の無駄遣いとなる。同じミサイル防衛としても、例えば敵地攻撃能力としての巡航ミサイル導入やF-35増勢、あるいはイージス艦とSM-3増勢のほうがよい。これらは他にもいろいろと使いみちがあり、やっても無駄にはならないものだ。

(ミサイル防衛は意味がない(上) の続き。全2回)

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