大丈夫?マイナンバーのセキュリティ 消費税という迷宮 その4
Japan In-depth / 2016年2月26日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
都内で会計事務所を開いているM税理士は、マイナンバー制度について、
「あれは一般に考えられているより、かなり危険ですよ」
と語る。今年から、税理士が扱う確定申告の書類にマイナンバーを記入する欄ができた。今のところ、記入は任意とされているが、義務化は時間の問題と見られている。
税理士会のスケジュール表を見せてもらったが、確定申告が終わる4月以降、マイナンバーの扱いについてのセミナーが目白押しだ。
「本当は昨年の年末調整から本格導入したかったのでしょうが、幸か不幸か、郵便事情で番号の割り振りを徹底できなかったわけですね」
全国民に12桁の番号を割り振り、徴税と行政サービス両面の合理化を図ろうというものだが、事業所等からナンバーや個人情報が流出した場合、管理責任を問われ、罰則規定まである。
要するに、税理士は情報管理に伴うリスクだけ背負わされ、政府はもっとも安上がりな手段で、個人事業主のバランスシートを可視化しようとしているわけだ。
だが、M税理士に言わせると、徴税の問題など氷山の一角に過ぎないらしい。意外に思われるかも知れないが、日本がマイナンバー制度の手本としている国は、北欧のエストニアである。バルト三国の中でも北端に位置し、日本ではおそらく、元大関・把瑠都(ばると)の出身地というのが、最も通りがよさそうだ。
総人口は130万人と、日本の1%程度に過ぎないが、国土面積は北海道と同じくらいあるので、人口密度は恐ろしく低い。なおかつ、前世紀から最大の社会問題は少子高齢化だという。こうした諸条件から、重工業の発展は望めないとして、1991年にソ連邦から独立して以降、IT産業に力を入れてきた。今はマイクロソフトの傘下にあるSKYPEもエストニアで起業されたと聞けば、その実力の一端が知れるであろう。
こうしたIT産業の実力をいかんなく発揮したのが、e-Estoniaと呼ばれる、バーチャル政府組織である。端的に言えば、政府機能の大半が電子化され、国民はネットを駆使して納税はじめ諸手続を済ませる一方、同じくネットを通じて様々な行政サービスを受けることができる。
いや、行政にとどまらず、民間企業ともリンクしているので、受けられるサービスは最大3000にもなるという。コスト削減の効果から言えば「究極の小さな政府」であろうか。読者諸賢はすでにお気づきのことと思うが、わが国におけるマイナンバー制度の導入は、少子高齢化社会における行政コストの削減にあると見て間違いない。
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