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「もうあかん!」名物靴店閉店と「いかにも大阪的」考

Japan In-depth / 2016年3月4日 23時0分

「だますつもりはなかったんです。作ったときは、ほんまに正直な気持ちやったんです。不安で不安でしかたなかった」。店主の竹部浅夫さん(74)は「もうあかん!」の垂れ幕を掲げ始めた当時をそう振り返る。

バブル経済の崩壊に前後して、客足が激減し、真剣に閉店を考えたのだという。閉店するために、垂れ幕を新調する店もないだろうから、あえて話半分に聞くとして、竹部さんがふと漏らした言葉は、本音だろう。 「垂れ幕をかけると、通りを通る人や、車で通る人まで笑ってくれたんですわ。行き交うみんなと会話してるようやった。漫才でもしているようやった。うれしかったなあ」

 つまり、垂れ幕はボケで、店先を行き交う人がツッコミ。店ごと、街と「掛け合い」をしていたというのだ。

そして、麻雀店の電飾の下、店の黄色いひさしの中央に毎日のように掲げられるうちに、いつしか「もうやめます!」の垂れ幕はすっかり色あせて古びていき、店じまいを誰も信じなくなった。店は、いつまでも閉店しない閉店セール店の“元祖”のように扱われることになった。

垂れ幕の文言を読むと誤解されそうだが、店主の竹部浅夫さん(74)自身は、「どちらかと言えば内気な方」と自己分析するように、訥々としたそのシャイな話ぶりを聞くかぎり、単純な「目立ちたがり屋」や、関西風に言うところのいわゆる「いちびり」とは、少し違う印象を受ける。

閉店理由は、体調を崩し、店頭に立ち続けることが難しくなったためだが、支援する人が出てこなければ、黙って一人で店を閉めるつもりだったという。今回の各社の一連の取材攻勢にも、最後の日を除いて、写真や映像の取材は断り続けていた。

しかし、普段、極度の人見知りでも、ひとたび撮影や舞台になれば豹変する、職人肌のお笑い芸人がいるように、おもしろがる人の存在が、小さな店と派手な垂れ幕の支えになっていた。

閉店日に、有志によりささやかに催された手作りのセレモニーで竹部さんは、「こんなしょうもない男のために、こんなに集まってくれて、ほんとありがとう、ほんまおおきに」と、言葉少なに精一杯のあいさつをし、涙した。

そして、「本当に閉店するんですか」という記者からのお約束の質問には「これでまた続けたら閻魔様に舌を抜かれる」と笑った。

人によっては、都会のど真ん中で、色あせた“ウソ”の垂れ幕を堂々と掲げ続けたこと自体に、「いかにも大阪的」ながめつさや厚かましさを感じるかもしれない。

だが、実は、掛け合いの「間」や、それを見も知らぬ他人がおもしろがる「余裕」こそ「いかにも大阪的」の真骨頂であり、本当の閉店セールを手伝った有志たちが言うように、店はなくなっても大阪の風俗史の1ページを飾るにふさわしい-などと書けば、もちあげ過ぎだろうか。

歴史に残るはずの「もうやめます!」の垂れ幕は、昨年の台風時に外して以来、どこかにいってしまったそうだ。 閉店しない閉店セールをやる店は今では珍しくない。が、ここまで案外惜しまれて閉店する店はまずないだろう。例え大阪にあっても、今時の「閉店セール店」からは、「間」も「余裕」も全く感じられないのが残念だ。

トップ画像:閉店日を迎えた「靴のオットー」。土砂降りの雨のなか大勢の報道関係者や客らが詰めかけた。ⓒ山口敦

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