取材先と記者との「緊張関係」の未来
Japan In-depth / 2016年3月7日 7時0分
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
最近、取材先と取材する側との関係について色々と喧しいが、24年間取材している身としては古くて新しいテーマだと思う。 世の中には「腹を探り合う関係」というのは至る所にあって、身近で言えば付き合い初めの恋人同士なんていうのは、お互いの気持ちを探り合い、量りあったりするものだし、社会人ともなれば、取引先などとの交渉事など日常茶飯事だ。相手の要求を探り、こちらの出方を決める。誰でもやっていることだ。
競合他社がいたら、彼らを騙したり、裏をかいたりして、自分の会社が受注するべく動く。そうした工作が功を奏し、自社にその案件が転がり込んで来たら、上司からよくやった、と褒められるだろう。つまり、社会ではそうした行為は法に反しない限り容認されているし、正当化されている。
何が言いたいかというと、「腹の探り合い」なんて可愛いもんで、世の中にはもっと酷い嘘や裏切りが蔓延している。ある意味それが社会そのものといってもいい。ここまで書くと、いや、取材先と取材する側、つまり記者とかジャーナリストと呼ばれる人種との関係は、そういった一般的な社会の、人と人、会社と会社の関係とは違うんだよ、という人が出てくるかもしれない。
そういう主張の背景には、ジャーナリストとは、「権力をチェックし、報道することにより、世の中の課題を解決するために活動する」特別な存在である、という考えがあるのかもしれない。確かにジャーナリストはそうした意識を持つことが必要だと思うし、そうした活動がなければ人々は政府や政治家、企業からの一方的な情報しか得られず、公正な判断が下させない可能性が高まる。それは決して社会の利益にはならないと考えられるからこそ、「表現の自由」は保障されるべきだ、ということに異論を唱える人はいないだろう。
しかし、だからといって取材される側がジャーナリストの要求通りに何でもかんでも情報を提供するかといったら、そんなことはありえない。当然のことながら、取材を受けるか受けないかは取材先の勝手だし、自分たちの不利益になると分かっていて、進んで取材を受けるはずもない。逆もまた真なりで、利益になると分かっていたら喜んで取材を受けるであろう。
であるならば、取材する側、すなわちジャーナリストは何とかして相手に取材に応じるよう、手練手管を弄するのは当たり前だ。一方、取材される側はそうしたジャーナリストの狙いを逆手に取って、自分の思うような記事を書かせるために意図的に一部のメディアにだけ情報をリークしたりする。つまり、両社の間には日常的に「狐と狸の馬鹿し合い」のような状況があるのだ。幾らジャーナリズムを振りかざそうが、取材先にとってはそんなことはお構いなし、知ったこっちゃないのである。騙される方が悪いのだ。
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