調査捕鯨に利益はない その理由
Japan In-depth / 2016年3月29日 23時0分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
調査捕鯨は、やるだけ損でしかない。
今月24日、調査捕鯨の船団が下関港に帰投した。これは昨年12月1日に同港を出発したもので、同22日から2月25日までの間に南氷洋でミンククジラ333頭捕獲している。
このニュースについては、内外で取り扱いの差が大きい。日本では、各社とも帰投の事実を述べる程度の小記事である。その数もグーグルニュースで「調査捕鯨」として検索しても49件ヒットするに過ぎない。だが、海外報道はその詳細を尽くした長文記事である上「Japanese+Whaling」で検索すると「Japan+Whaling」も含め合計255件ヒットする。
調査捕鯨は国内ではさしたるニュースではないが、国外では大問題だということだ。
特に、地先で調査捕鯨を実施しているオーストラリアの反発は大きい。豪ABCニュース記事(注1)によると、環境大臣は「強く反対しているにも関わらず実施された」と述べている。
果たして、そこまでして調査捕鯨をやる価値はあるのだろうか?
ひとことで言えば、ない。そこにわざわざ世界の反発を買ってまで実施する利益はない。特に、日本にとって重要なオーストラリアとの関係進展を妨害する不利益がる。その点を考慮すれば、南氷洋調査捕鯨はやめたほうがよい。
■ 調査捕鯨に利益はない
調査捕鯨には利益はない。
まず、それで商業捕鯨を再開できる見込みはない。建前上、調査捕鯨は商業捕鯨再開に資するデータを採取するための科学調査となっている。だが、現状のIWC(国際捕鯨委員会)の状況を見れば、いくら調査捕鯨を実施しても商業捕鯨が再開できない。調査捕鯨は国費補助による実質官営事業であるが、その効果が見込めない点で税金のムダでしかない。
また、入手した鯨肉も食肉としてさしたる価値はない。今の日本には、極一部の珍味部位を除けば鯨肉需要はない。そもそもかつて牛缶偽装事件があったように、近代捕鯨で得られた鯨肉そのものが牛肉等の代替品でしかなかった。食用に育てられた牛豚羊の、さらに食肉として好適な部位が安価に出回っている現代日本では必要なものではない。
■ 不利益は大きい
対して、その不利益は大きい。
なによりも、オーストラリアの対日感情を悪化させてしまう。もちろん調査捕鯨はオーストラリアのEEZ(排他的経済水域)200マイルの外で行われている。だが、豪国民の意識としては、南氷洋は「自分たちの海」であり、そこのクジラは自分たちが大事に守っている「神聖なクジラ」である。それを遠く離れた日本人に捕殺される。これは豪国民にとっては自分たちの体を傷つけられるような不快感しかない。
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