晴らすべきは業界の「闇」 漫画アニメ立国論 その7
Japan In-depth / 2016年4月12日 12時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
前回、日本の漫画業界を支えているプロダクション・システム=アシスタント制度について、これこそ日本型ものづくりの姿である、と述べた。
そもそも私が「漫画アニメ立国論」などというテーマを思いついたのは、前々から、こういう職人の徒弟制度のようなものが、実は大衆消費社会の市場を席巻する原動力たり得るのではないか、と考えていたからでもある。
しかしそれでは、そうしたシステムに問題はないのだろうか。
結論から言えば、大いなる問題をはらんでいる、と言わざるを得ない。
まず第一に指摘せねばならないのは、この業界の苛酷さである。
「48時間寝ないなどザラ。締切のストレスで胃はボロボロ。缶コーヒーは一日10本、タバコは呼吸のように一日7箱」
ある漫画家の回想だが、昭和の流行歌の歌詞を剽窃すれば、これじゃ体にいいわけない。
共に仕事をするアシスタントたちも、同様の苛酷さを味わうわけで、別の漫画家は、
「お願いですから家に帰らせて下さい」
と言って泣き出したアシスタントの逸話を紹介している。まるでブラック企業だ。
百歩譲って、ここまでは、好きなことで飯を食うというのは、そう簡単なことではないのだ、と達観することもできるかも知れない。しかし、食べて行けない現実があったとしたら、どうだろうか。
近年アニメを見て、最後のテロップの「作画」という項目に、中国人や韓国人の名前がズラリと並ぶことに、お気づきではないだろうか。
アニメーターと呼ばれる人たちだが、彼らは漫画のアシスタントと同様、いや、それ以上に苛酷な長時間労働を強いられ、それでいて単価が安い。
実は高校の後輩に、アニメーターになった者がいるので、業界の内膜を多少は聞きかじっているのだが、端的に言うと、かなりの経験を積んでも、年収200万円を超えるのはなかなか難しく、これでは妻子など養えないということで、結婚が決まると「寿退社」を選ぶ男性が多いのだそうだ。
映画であれTVであれ、毎秒24コマの画像があって、はじめて自然な動画になるのだそうで、これは実写でもアニメでも変わらない。
逆に言うと、アニメでもって実写と同様の躍動感を描き出そうとすれば、1秒につき24枚もの原画が必要だということになる。
そんなスピードで絵を描くことができる人間はこの世にいないから、これまた逆に言えば、1時間のアニメ映画を作るために必要な原画の枚数は、膨大なものとなってしまう。
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