セブン&アイの混乱に見るカリスマ時代の終焉
Japan In-depth / 2016年4月16日 18時0分
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
コンビニ業界のカリスマ、育ての親ともいわれたセブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)の鈴木敏文会長が、突然引退を表明した。セブン-イレブンの井阪隆一社長の交代を提案したところ否決されてしまったのだ。
役員15人のうち賛成が7、反対6、白票2で過半数に1票足りなかった。無記名投票だったようだが、創業家の伊藤雅俊名誉会長(イトーヨーカ堂創業者)、社外取締役4人などが反対にまわったといわれる。コンビニ業界で絶大な力を持っていた鈴木氏が反乱にあい、退任にまで至ったことは経済界に大きな衝撃を与えた。しかもたった一票の差で鈴木案が陽の目を見なかったことは印象的だ。いかに深刻な対立があったかを匂わせる。
実はセブン&アイの業績は、この不況期にあって5期連続過去最高益を記録(16年2月期の営業利益は3523億円)しており、うちセブン‐イレブンの営業利益は2350億円(前期比5.2%増)と多数を占めている。井阪氏の社長歴は7年と長いものの、業績面では文句のつけようがなかったにも関わらず、鈴木氏が社長退任を迫ったのは「残念ながら今後のセブン-イレブンへの改革案がほとんど出てこなかったからだ」としている。
また鈴木氏がショックだったのは創業家の伊藤家や社外だけでなく社内役員からも反対がでたことだったようだ。鈴木氏は退任を表明したが、セブンの人事の混乱はまだ続くとの見方も多く予断を許さない。自他ともにカリスマを任じていた鈴木氏がたった一票の差で退陣を余儀なくされた心境はいかばかりだっただろうか。
【カリスマが引っ張った20世紀の世界】
20世紀の政治、経済界はカリスマが引っ張ってきた時代ともいえる。政治ではケネディ・ニクソン・レーガンのアメリカをはじめ、毛沢東・周恩来・鄧小平の中国、スターリン・ブレジネフ・ゴルバチョフ・プーチンのソ連、サッチャー英首相にシュミット・コール西独首相らが東西両陣営をリードしてきた。日本の経済界でもソニーの盛田・井深の創業者コンビ、パナソニックの松下幸之助、トヨタ自動車の豊田家などカリスマ経営者らが戦後の中小企業を世界的企業に育てあげた。コンビニは遅れてやってきた業界だが、その先頭に立って日本人のライフスタイルまで変えてきたのが鈴木敏文氏らだった。
冷戦とバブル崩壊後は、どの国もどの経済業界にもカリスマ的存在の人物はいなくなり、過渡的社会の中でもがき苦しんでいるのが実情だろう。世界を統治できる国は衰退、経済界を引っ張ってきた産業も衰弱し、代り得る産業や企業はまだ見えていない。
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