真田は「負け組のヒーロー」 ネオ階級社会と時代劇その1
Japan In-depth / 2016年5月10日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
NHK大河ドラマ『真田丸』の評判が、なかなかよい。
もともと戦国や幕末を舞台にすると当たる、と言われているそうだ。
理由はいくつか考えられるが、なんと言っても、知名度の高い登場人物が大勢いるので、オールスター・キャストが組みやすく、老若男女から幅広い支持を得られる可能性が高い、ということである。
若い女性視聴者を獲得するには、ジャニーズ系アイドルを多数出演させるのが手っ取り早いのだが、実は彼らは、みんな意外と背が低いので、大柄な俳優が多い時代劇では使いにくい、という話を聞いたこともあるが、これはまったくの余談。
戦国ものや幕末ものが人気を博しやすいのは、やはり下克上とか強大な権力を倒すといった物語が、痛快と受け取られるからであろう。
これはしばしば、判官贔屓といった日本人特有の心理だと説明されるのだが、私は少し違う見方をしている。
つい先日、サッカーのプレミアリーグ(イングランド1部リーグに相当)で、レスターが初優勝を飾った。
日本代表の岡崎慎司が所属しているため、わが国でも大いに話題となったが、人口30万ほどの小さな街にあり、資金的に決して豊かとは言えないクラブが、名だたるビッグクラブを出し抜いたことに、世界中のサッカーファンが拍手を送ったのだ。
英国ではまた、リーグの順位を賭けるサッカー賭博が盛んだが、レスター優勝のオッズは5001倍。ブックメーカーと呼ばれる胴元が悲鳴を上げているそうだ。
「ネッシーの実在が確認される」
のオッズが500倍ほどと言うから(英国では、人の生き死に以外はなにを賭けの対象にしてもよい)、いかに想定外の事態だったが分かる。
「下克上」を痛快と受け取る心理は、決して日本人特有のものではない、と私は思う。
そもそも『真田丸』の主人公である真田信繁(幸村という名については、後述)は、下克上を成し遂げたヒーローではない。
徳川家康の天下取りの野望の前に立ちふさがったことは事実だが、関ヶ原の合戦に際しては父・真田昌幸ともども西軍に与し、つまりは敗軍の将となった。
しかもこの時、幸村の兄・信幸は東軍に与した。兄弟それぞれの婚姻関係(信幸の妻は家康の養女、信繁の妻は西軍の重鎮・大谷吉継の娘)もあったが、天下分け目の決戦に際して、どちらが勝っても真田家が生き残れるように、と考えていたのだ。
事実このおかげで、昌幸・信繁親子は刑死を免れ、高野山に幽閉の身となった。
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