ドゥテルテ次期フィリピン大統領との付き合い方
Japan In-depth / 2016年5月14日 23時0分
ドゥテルテ氏の当選で、私は1998年5月の元俳優、ジョセフ・エストラーダ大統領(現マニラ市長)を誕生させた選挙を思い出した。投票日、エストラーダ氏の母親にインタビューする機会があった。実はエリート一家なのだが、「出来ない子ほど可愛い」の類で、母親は息子を案じ、国民に信頼される大統領になって欲しいと語ったものだ。結果は抜群の知名度と人気で当選。しかし政策遂行能力を欠き、不正蓄財疑惑から任期半ばで退陣に追い込まれ、母の願いを裏切ったのだった。
市民たちの「ドゥテルテなら何でも実現してくれそう」という、過剰で安易な期待の声を聞けば聞くほど、エストラーダの二の舞にならなければ良いがと思う。
皮肉なことに状況も似ているのだ。前任のラモス大統領もアキノ3世政権のように仕事師で手堅く、マルコス独裁崩壊後の負の時代にようやく別れを告げ、経済再建が軌道に乗るかに見え始めた矢先のことだった。それをエストラーダはすごろくに例えるなら、振り出しに戻るとまでは言えないが後退させてしまった。
単なる偶然の一致か、あるいは政治が政(まつりごと)ならぬ祭りごとのフィリピン人にとっては、生真面目な仕事師タイプはちょっと窮屈で苦手、反動で人気投票的なポピュリズムが幅を利かせるのか。これは一考に値するもう一つのテーマである。
ダバオ市長として、同市の治安を劇的に改善したというのがドゥテルテ氏のウリだ。その頃、共産ゲリラ、新人民軍(NPA)の取材でダバオ市を訪れたことがある。NPAも怖いが、ヴィジランテと称する自警団の方がもっと怖いと声を潜める市民もいた。
ダバオの流儀が国政にそのまま通用するなどと錯覚をしてはいけない。強烈な個性や魅力は時としてカリスマによる民主主義の暴走へと繋がる。
この間、フィリピン経済は平均6%を超す経済成長を記録するなど、順調に推移してきた。「アジアの病人」の汚名も返上しつつある。すでに高齢化社会が始まっている東南アジアで、人口ボーナスが当分期待出来る同国の潜在成長力は極めて高く、若いフィリピンはこれからの国だ。
奇手は要らない。このような国民のポテンシャルを総動員出来る、まっとうな政治をドゥテルテ次期大統領には望みたい。日本もそのようなフィリピンと手を携えたい。
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