オバマ広島訪問の真の意味
Japan In-depth / 2016年5月26日 9時25分
横江公美(政治アナリスト)
ついに、オバマ大統領は現職の米国大統領として初めて広島訪問することになった。
即座に、ニューヨークタイムズに「謝罪ではなく未来を作ることが目的」とオバマ大統領の側近が語る記事が掲載された。米大統領の広島訪問は、日本から見る以上に敷居が高い。
そのことは、2012年の「オナ―・フライト〈名誉なる飛行〉」というドキュメンタリー映画を見た時に実感した。この映画は、第二次世界大戦で生き残った年老いた退役軍人がオナ―・フライトという非営利団体のプログラムで首都ワシントンを訪れ、帰路に着くまでのドキュメンタリーである。
ワシントンでは連邦議会や退役軍人記念館で放映され、満席の観客は啜り泣きと拍手で溢れていた。第二次世界大戦はアメリカ兵にとっても凄惨で、生き残った退役軍人のほとんどが身体か心の病を抱え大量の薬を飲んでいた。
この状況を鑑みると、米大統領が原爆投下に関して謝罪するとは思えない。生き残っている退役軍人の名誉を傷つけることをアメリカの大統領がやれるわけはない。
ただ一方で、「核の投下はやり過ぎだった」との見方は年を追うごとに増えている。ピューリサーチによると、原爆投下に賛成する人の割合は1945年の85%から2005年には57%にまで減っている。原爆投下は正しかったと考える人の割合は2015年になると半数を超える程度であり、18歳から29歳の世代では正しかったと考えるのは47%で半数を切っている。65歳以上は70%が正しいと思っている。視点を変えると、こういう調査が行われ続けていることにも米国の深層心理が透けて見えるといえるだろう。
時代は変化しているとはいえ、第二次世界大戦の生存者がいるうちに広島を訪問するということは、米大統領にとっては歴史的な大英断であることは間違いない。
それにもかかわらず、オバマ大統領はなぜ広島訪問を決めたのか?
その背景には過去と現在の2つがある。
1つは、オバマ大統領の国際政治への取り組みを見ると、オバマ大統領は、アメリカの戦後レジームを終了させようとしている。その最後の砦が広島訪問なのである。
オバマ大統領はイラクとアフガニスタンの2つの戦争を公式的には終わらせ、次に、キューバとイランと対話を再開させたことからもわかるように冷戦構造を完全に終わらせようとしている。また、ミャンマーとも国交回復している。今回のアジア訪問では、まずはベトナムに立ち寄り、武器輸出を解禁し完全に国交を回復した。そして、ついに、ワシントンポストが「古傷」と表現した第二次世界大戦の遺物を取り除こうというのである。
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