電力小売り自由化の真実 その3
Japan In-depth / 2016年5月26日 17時10分
竹内純子(NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員)
「竹内純子の環境・エネルギー政策原論」
多くの方が不安に思うのが、停電が増えるような事態にはならないのか、ということです。とあるマーケティング会社の調査(注1)によれば、新電力会社に求めることを複数回答で聞くと、「価格の安さ(価格競争)」が88.9%で最も多く、以下「安定供給」の76.7%、「トラブル発生時の対応の早さ」の51.9%が続いたそうです。「トラブル発生時の対応の早さ」は、停電などが発生した場合の復旧の早さをイメージしている方も多いでしょうから、電気の品質維持に対する強い期待が感じられます。そこで、今回は自由化で停電は増えるのか、という問いにお答えします。
Q 停電は増える?
自由化によって停電が増えるのではないかという不安を持たれている方は大変多くおられます。この答えとしては、「契約先をこれまでの電力会社から別の事業者に変えることで増えるのか」ということであれば、それは関係ありません。電気は電線ですべて混ざるので、契約先を変えた家庭だけが停電するということにはならないのです。
ただ、自由化した場合に社会全体における停電のリスクがどうなるか。これは自由化のタイミングややり方次第です。実は、自由化を実施するタイミングというのは非常に重要です。
先に自由化した欧州諸国で自由化が行われたタイミングにおいては、政府の規制のもとで背負った「供給義務」を果たすため、電力事業者が多くの設備余剰を抱え込む、いわゆる“メタボリック”の状態でした。
その年の最大電力に対する発電設備容量の比率を「設備率」(1年間に最も電気を必要とする瞬間の電気をまかなうため、必要な設備に対し保有する発電設備がどれくらい余裕があるか)と言いますが、仏、独、伊など欧州各国が自由化を開始した年の設備率は1.5を上回っていたのです。
その年の最大電力を賄うのに必要な設備の1.5倍もの設備が形成されていたということになりますので、かなりメタボであったと言えます 。
そのため、自由化当初は無駄な設備の廃止など事業のスリム化によって電気料金低減効果が見られたところもありますが、年月が経過すると国全体として設備が十分ではなくなってきます。
ドイツなどでは、再生可能エネルギーの大量導入もあって火力発電所の閉鎖・廃止が相次ぎ、ここ数年冬季の(ドイツは、夏は涼しいので、冬の電力需要が最大)電力供給に問題がないかどうかが、大きな話題となっています。
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