中国が沖縄に攻めてこないわけ
Japan In-depth / 2016年5月27日 18時0分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
かねてから不思議な理屈がある。「駐留米軍がいなくなると中国が沖縄を侵略する」がそれだ。
沖縄の反基地感情が強くなると、決まって出てくる言説である。今回の女性遺体遺棄事件でも、安全保障サイドは、「中国は沖縄を狙っている」と言い出し、特に海兵隊を擁護する「米陸上戦力がいなくなると沖縄は軍事力の真空となる、そこに中国が侵攻してくる」といったものだ。
だが、その根拠となる見積もりや判断が示されたことはない。「なぜ中国が沖縄を侵攻するのか」「中国は対日戦を決意できるか」点の説明はない。結局は、宿命的に「絶対、攻めてくる」といったものでしかない。だが、駐留米軍がいなくなったところで、中国は沖縄に攻めてくるわけではない。その理由は次のとおりである。
■ 中国の進出方向ではない
まずは中国にとって進出方向ではない点である。このため具体的に侵攻対象となるものではない。
沖縄は中国が権益を伸ばす方向にはない。現在、中国が政治・経済・軍事力を注いでいるのは南シナ海である。そして将来的な発展方向も一路一帯、つまりは南アジアや中央アジアを指向している。日本や太平洋方面での動きは、漁業と艦隊行動に留まる。
中国の興味が向かない点で、現実的に沖縄侵略の可能性はない。尖閣諸島やその周辺の海洋資源の取り合いはともかく、沖縄の支配には全く興味をもっていない。しかも手を出せば地域大国の日本や、背後にいる米国との決定的衝突が避けられない状況に陥る。
「中国はスキを見せれば侵略してくる」も誤りである。そもそも、中国周辺にはスキだらけ、かつ同盟国を持たない国がある。例えばラオスやミャンマーがそれである。だが、両国は侵略された話はない。なぜなら中国であっても大義名分が立たなければ他国と戦争し侵略することはできない。この点、自国領域とするチベットやウイグル、台湾の問題とは異なっている。
■ 中国は沖縄を侵略できない
そもそも、中国は日本に攻め込んだところで勝機はない。この点でも沖縄侵攻はない。
まず、戦争のリスクが高すぎる。中国人からすれば、日本は近世以来の恐怖の対象である。明は日本との戦いで疲弊して倒れ、清は日清戦争での敗北により権威を失った、民国は日中戦争により都市と沿岸部のすべてを失った。大正時代一五万の日本陸軍が昭和一五年には200万まで膨らみ、中国主要部のほぼすべてを占領したのである。今ではその背後には日米同盟を結ぶ米国がいる。
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