ベッキー騒動とスポンサー企業(下) 商品の失われた信用を取り戻す道
Japan In-depth / 2016年6月1日 11時0分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
タレントのベッキー(32)は多くの視聴者の共感を失い、嫌悪感を持たれているが、「あの子は素直だ」「よく気が付く」「所属事務所のサンミュージックをつぶすわけにはいかない」という業界内の論理で、テレビ復帰が確実視されている。
一方、2013年に放送されたNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で「国民的人気女優」になった能年玲奈(22)は、依然強いファンの支持を得ているにもかかわらず、所属する芸能事務所とのゴタゴタで業界内の「信」を失い、干されている。
商品としてのタレントを買うか買わないかは、買い手の視聴者が決めることであるはずだが、「引退してほしい」との声が高まるベッキーがゴリ押しされ、人気の高い能年が引退の危機に直面している。また、繰り返される不正で売上が急降下した三菱自動車において、数千人の従業員や関連企業の雇用が脅かされる一方で、視聴者の信用を完全に失ったベッキーが「借金返済と事務所救済のため」という理屈で復帰できるのは、いかにも不条理だ。
ベッキーが自らの不正で背負った借金の返済やサンミュージックの存続は、視聴者の責任ではない。「視聴者のためのベッキーか、ベッキーのための視聴者か」が問われている。
公私逆転という点で、視聴者やスポンサーへの蔑みはベッキー個人の問題ではなく、「業界人」全体に共通しており、その意識がベッキーの不倫に象徴的に表れたに過ぎない。
不倫とは、すべての公的な信頼関係の基礎である結婚を、「私的な満足や利益の道具」に奪胎換骨し、信用を悪用することで不正な利得を得ることだ。「嘘つきは、泥棒の始まり」とは、よく言ったものである。不倫と公私混同は、同根なのだ。
ベッキーが復帰するにはまず、自己の「信」の悪用を十分説明し、芸能界から引退して世間の冷たい仕打ちに耐え、歯をくいしばって誠意を分かってもらうしかない。
その上で、「引退しますが、またご用命があれば、お申し付けください」と、将来を世間に委ねる。復帰を判断するのは売り手の業界ではなく、客の視聴者だ。顧客への蔑みを捨てたベッキーを再び引き立てようと思う人たちは、必ず出てくる。気の遠くなるようないばらの道だが、結局、それが一番の近道だ。そうしないと、スポンサーへの苦情が止まず、迷惑をかけ続けるだろう。
ベッキーの復帰は、引退中の試練に耐えた本物の顧客志向に基づくものでなければならない。それが、ベッキー出演番組のスポンサー各社の経営理念とも合致することになる。
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