ドラマをカタルシスで終わらせる危険性 ネオ階級社会と時代劇その6
Japan In-depth / 2016年6月6日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
英国の階級社会をつぶさに見て、最初のうち私は、下の方のクラースに位置づけられた人たちは不満を持たないのだろうか、との疑問を抱いていた。
しかし、ロンドンでの生活が長くなるにつれ、階級社会というものはアパルトヘイト(人種隔離政策)のごときものとは趣が違うのだ、ということが理解できるようになった。いや、正直に言うと今もって理解はできない。ただ、労働者階級の英国人というものは、そのような環境に耐えているわけではなく、世の中とはそういうものだ、と割り切っているのだな、と思えるようになったのである。Them and us. 彼らと我々。要するに、彼ら(上流および中産階級)は彼らで、我々は我々だ。という「棲み分け」の論理が、この一言に集約されている。
同じ頃、私は「ロンドンの士農工商」などという言葉も耳にした。
こちらは日本人社会特有の言い方で、つまり、在英日本人社会にあっては、外交官や、古くから当地に進出している、財閥系大企業の駐在員のステータスが高い。一方、旅行会社や航空会社などは、人数は多いもののステータスではやや劣る。研究者や留学生は、またちょっと特殊な存在で、企業駐在員を相手の商売そしている人たち、具体的には出入り業者や日本レストランの経営者などは、まあ頭を下げてなんぼの存在、といった意味だ。
つくづく下らない、とその時は単純に思ったが、これを英国の階級社会と二重写しにして見ると、笑い事で済まされないことに気づいた。
そもそも英国で言うクラースとは、もっぱら職業によって規定されている。
王侯貴族が頂点で、これに地方の大地主階級などを加えたのが上流階級。大企業のエグゼクティブや医師・弁護士などの専門職、成功した芸術家などがアッパー・ミドルクラス。官僚や日本で言うエリート・サラリーマンがミドルクラス。零細自営業者、下級公務員、自営農民などがロウアー・ミドルクラス。そして、主として肉体労働に従事している人たちがワーキングクラス(労働者階級)。
階級社会とか、階級一般について述べるときはクラースと伸ばして発音し、個別の階級を指す時には、なんとかクラスと言うようなので、ここでの表記もそれに倣った。
ここで話を日本社会に戻すと、いや、読者諸賢には、私が何を言いたいか、すでにお分かりではないだろうか。親がエリートなら子供もエリート、そして親が労働者ならその子供も労働者。そういった「格差の世襲」が当然のこととして受け取られ、階級によって異なるライフスタイルを維持し、一緒に酒を飲む程度の交流さえもない。これは、近未来の日本の姿ではないか、と考えた。封建時代の身分制度が取り払われて、およそ100年。新憲法によって華族制度が廃されて半世紀あまり(20世紀末の時点)。日本には、新たな階級社会が復権してきているのではあるまいか、と。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
「一流は休日のために仕事をする」日本人とは真逆…世界のエリートが休日にやっている"活動の種類"
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 15時15分
-
「自信過剰な人」をリーダーにするのは進化のせい 「大言壮語」を信じがちな人類のやっかいな傾向
東洋経済オンライン / 2024年11月21日 12時0分
-
細川バレンタイン氏が選ぶ歴代最強日本人ボクサー 1位は井上尚弥、2位は「突然変異」ミドル級王者
東スポWEB / 2024年11月20日 14時4分
-
「自分を大人だと思う?」→18歳の日本人「いいえ」…この質問と答えが示す、本質的な問題
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月3日 14時15分
-
「物を投げる能力」が変えた人間社会の権力構造 階層制が平坦化した理由はヒトの「肩」にある
東洋経済オンライン / 2024年10月28日 11時0分
ランキング
-
1一晩で20万人超が一斉サイクリング、「道一帯が自転車でふさがる」…中国政府は抗議行動再燃を警戒し外出規制も
読売新聞 / 2024年11月25日 19時53分
-
2「ネタニヤフ氏に死刑を」 イラン最高指導者
共同通信 / 2024年11月25日 17時46分
-
3韓国最大野党「共に民主党」の李在明代表に今度は無罪判決 自身が被告の裁判での偽証教唆罪に問われるも 裁判所「検察の証拠だけでは故意があったとみるのは不十分」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月25日 16時19分
-
4フィリピン大統領、「見逃すわけにはいかない」=副大統領の「殺害」発言に反発
時事通信 / 2024年11月25日 19時44分
-
5ロシア、ウクライナ停戦で次期米政権に期待か ウォルツ氏発言受け
ロイター / 2024年11月25日 20時26分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください