キャメロン首相の大いなる誤算 英国はEUから離脱するか その5
Japan In-depth / 2016年6月22日 7時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
前回、英国においてEU離脱派と呼ばれる人たちは、EUに留まることのデメリットは主張できても、離脱することによっていかなるメリットが得られるのか、明確に説明できていない、と述べた。同時に、事実誤認や問題のすり替えが目に付く、ということも指摘しておこう。
まず、離脱派の議論の中でもっともポピュラーなのが、
「英国民が納めた税金のおよそ2割が、南欧の浪費国家のために使われている」
というものだが、これは数字の捏造か、善意に解釈しても、EU予算の17%ほどを英国が負担している、というデータを誤読したものであろう。
英国から相当額の資金がヨーロッパ大陸諸国に流れていることは事実だが、それは直接投資であったり、後でEUから割戻金があったりするといった類のもので、英国の税収の2割がEU諸国に流れている、という議論は成立しがたい。
まったくの事実問題として、英国議会は歳入の98%までを自分たちの裁量によって各種の予算に割り振っている。予算のおよそ4分の1を借金の返済(国債償還費)に充てざるを得ない、どこかの国と比較しても、自由度がずっと高いのだ。
もうひとつポピュラーなのが、
「EUに留まっているせいで、移民が流れ込み、自分たちの職が奪われる」
という議論だ。そもそも英国はEUの一員でありながら、一度どこかの加盟国で入国審査を通過すれば、その後の移動の自由は保障されるという、シェンゲン協定に加盟しておらず、もともと不法移民の入国は難しい。
一方では、英連邦諸国からの大量の移民を受け容れてきた歴史もあり、移民の問題は、英国とEUとの関係性の中だけで語られるものでは、決してない。
これらはいずれも、事実を正確に知らずに議論を展開している典型例だが、問題をすり替えた議論とは、具体的にどういうことか。日本でも報道されたが、サッカー元イングランド代表選手のソル・キャンベル氏が、EU離脱派に賛意を表明し、その根拠として、諸外国からやってくる選手によって、イギリス人の若手が「追いやられている」とコメントした(朝日新聞デジタルなどによる)。
この人は、もし英国がEUから離脱すれば、日本のプロ野球の「外国人枠」のようなものを設定し、イングランド国籍の選手の出場機会を増やせるとでも考えているのだろうか。サッカー市場にはサッカー市場の原理があるだけのことで、これをEUの問題と結びつけて論じるのは、いかにも無理がある。
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