朝日新聞の若宮啓文氏を悼む その4 歴史切り取りと日本不信
Japan In-depth / 2016年6月24日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
若宮啓文氏の朝日新聞での筆法の第三の特徴は「現実の無視と歴史の悪用」だった。前述のコラムで若宮氏は以下のように書いていた。
≪日本のシベリア出兵や米騒動をめぐって寺内正毅内閣と激しく対決した大阪朝日新聞は、しばしば「発売禁止」の処分を受けた≫
≪満州へ中国へと領土的野心を広げていく日本を戒め、「一切を棄つるの覚悟」を求め続けた石橋湛山の主張(東洋経済新報の社説)はあの時代、「どこの国の新聞か」といわれた。だがどちらが正しかったか≫
このように若宮氏は遥か遠い戦前の出来事の特定な一部を切り取って、自分の主張の正当性を証明しようとする。今の日本での懸案はすべて民主主義の政治体制での選択である。だが民主主義が制約されていた戦前の事例を持ち出して、あたかも今の日本にもその種の要因や環境が存在するかのように描く。自分に反対する側は戦前の軍国主義と同じなのだと示唆する。目前の民主主義の現実を無視して、戦前の軍国主義の歴史を目前の出来事への判断に利用しているのだ。
そもそもシベリア出兵も米騒動も若宮氏がこのコラムを書いた時点よりも90年も前の出来事である。そんな昔の大阪朝日新聞への発売禁止の措置をあたかも現代の日本で起きそうな事例として使うのだ。しかも自分たちの特定の政治主張を補強するために時代環境の大きな違いなどを無視して、特定の過去を利用する。歴史の悪用としかいえないだろう。
第四の特徴は「日本という概念の忌避」である。再び前述の若宮コラムから以下を引用しよう。
≪日本にはいまも植民地時代の反省を忘れた議論が横行する。それが韓国を刺激し、竹島条例への誤解まであおるという不幸な構図だ。
さらに目を広げると、日本は周辺国と摩擦ばかりを抱えている。
中国との間では首相の靖国参拝がノドに刺さったトゲだし、尖閣諸島や排他的経済水域の争いも厄介だ。領土争いなら、北方領土がロシアに奪われたまま交渉は一向に進まない。そこに竹島だ。あっちもこっちも、何のまあ「戦線」の広いことか≫
以上の記述にはこの筆者が日本人として日本の領土や主権を守ろうという意識が少しでも感じられるだろうか。「日本は周辺国と摩擦ばかり」という表現も発想も、筆者の基軸が日本におかれているとは思えない。まるでこの世界から遠く離れた宇宙人が他人事を語っているかのようなのだ。そこには若宮氏の「日本という概念」が感じられない。
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