Brexit 「離婚」か「別居」か?
Japan In-depth / 2016年6月27日 7時0分
久峨喜美子(英国オックスフォード大学 政治国際関係学科博士課程在籍)
Brexitをかけたレファレンダム(Referendum:国民投票)の結果と共に衝撃の朝を迎えてから3日が経つ。ローマ市内の友人宅の窓から、イギリスでは決して得ることの出来ないであろうまぶしいほどの日差しが燦々と降り注いでいたのがなんとも皮肉だ。なぜならこの「離婚」によって、ヨーロッパへのリーゾナブルなホリデーも、ヨーロッパからの低価格の輸入品も、イギリス国民はこれまで通り得る事ができなくなるかもしれないからだ。
キャメロン首相の母校でもあるオックスフォードをベースとした私の友人、同僚や教授等のFB上での嘆きや新聞記事を観ていると、イギリスにとっていかにこの選択が間違っているのか、老世代や学歴の低い人々がBrexitから予想されるであろうリスクにどれほど無知で、それがいかに若者世代に悪影響を与えるのかなど、視点は様々であれ離脱に投票した人たちの無知に対する批判と恐怖が大多数を占めている。
しかし批判されるべきなのは本当にBrexitに投票した人々だけであろうか?オックスフォードというある意味特殊な環境にいながら、非EU市民である私がBrexitについて一番ショックを受けたのは、所謂イギリスの「エリート層」が住むと言われる土地の人々がいかにその他の地域に住む人々の声に無頓着で、彼等の政治的影響について楽観的であったのかという事実である。
Brexitは、単にイギリスのEUとの離婚を意味しているのではない。イギリス社会が昔から抱えていた多方面での複雑なギャップがBrexitを通して顕在化したにすぎない。例えばスコットランドがイギリスからの独立をかけて住民投票を行ったのも記憶に新しい。今回のレファレンダムでもスコットランドのどこの地域を見てもEU残留を希望している。こうしたイギリス国内での亀裂は南北の対立軸だけでなく年齢層によっても明らかだ。
しかしレファレンダムから時が経つにつれ、実際EUから離脱することなどできないのではないか、という見方の方が強くなっている。確かに市場での急落はレファレンダムの結果とともに世界中に衝撃を与えた。しかし未曾有の大戦を経験したヨーロッパが平和と共存を求めて培ってきた「関係」は、一度のレファレンダムであっさりと断ち切れるはずもない。
帝国というステータスを完全に失い、グローバリゼーションというダイナミクスの中で、イギリスも1973年の加盟以来、貿易、投資、自由移動、移民、訴訟、安全保障、そして何より民主主義や法の支配という政治的価値を、否が応でもEUと共有するよう努力してきたからだ。
-
-
- 1
- 2
-
この記事に関連するニュース
-
イギリス政権交代の本当のカラクリ
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月12日 17時45分
-
フランス総選挙で予想外、極右政党「急失速」のなぜ それでも「マクロンは終わった」と指摘される理由
東洋経済オンライン / 2024年7月10日 7時30分
-
イギリス総選挙 政権交代しても、お先真っ暗な英国の未来
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月5日 16時20分
-
台頭する極右と高まる移民・難民排斥の機運、欧州はどこに向かうのか 専門家の見方は~青山学院大の羽場久美子名誉教授
47NEWS / 2024年7月4日 11時0分
-
右傾化するヨーロッパと左傾化するイギリス
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月22日 16時0分
ランキング
-
1トランプ氏殺害予告の男逮捕=SNSに投稿―米フロリダ州
時事通信 / 2024年7月21日 5時49分
-
2トランプ氏“暗殺未遂事件”で蔓延する“陰謀論”と“フェイク” 右派も左派も拡散の異常事態 深まる分断 米大統領選の行方は【報道特集】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月20日 21時30分
-
3トランプ氏、右耳の傷は幅2センチ=元主治医が明かす
時事通信 / 2024年7月21日 14時26分
-
4在韓米軍、F16飛行隊増強 ソウル南方基地で1年間
共同通信 / 2024年7月21日 5時28分
-
5空爆で死亡した妊婦から胎児救出 ガザ病院
AFPBB News / 2024年7月21日 14時39分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)