「離脱後のバラ色の未来」は嘘だった EU離脱・英国の未来その3
Japan In-depth / 2016年7月13日 7時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
EUからの離脱を決めた英国での国民投票が、またまた注目を集め始めている。
先の参議院議員選挙において、憲法改正に前向きな勢力が、ついに3分の2の議席を確保し、改憲の発議が可能となったからだ。議会において改正案が可決されたなら、次は国民投票でその是非を問うこととなる。
自民党の本当の狙いが9条改正にあることは明らかだが、消息筋によれば、安保法制が成立したことで、ただちに9条を改正せずとも自衛隊の海外派兵はすでに可能になっているから、当面は、大規模災害などを想定した緊急事態条項などの「加憲」を目指すという方針に、官邸は傾きつつあるらしい。まず、国民投票で憲法の条文を変えた、という既成事実が欲しいのだろう。
たしかに、「憲法改正を議論すること自体がよくない、というのは、責任ある政治家の態度ではない」と言われたならば、反論は難しいだろう。護憲派はますます追い込まれた。
私自身、日本国憲法を一字一句たりとも変えてはならない、という立場ではないのだが、今次の英国における国民投票が、非常に危険な先例となったことは指摘しておきたい。
多くの有権者が、「どうせ残留派が勝つだろう」と見越していたことはすでに述べたが、それ以上に、離脱派の主張がひどかった。
「EUから離脱すれば、週当たり3億5000万ポンドに達する拠出金が不要となるので、これをNHS(無償の医療サービス。全ての公立病院で適用される)に回せる」
「EU離脱と同時に移民の流入を英国政府の判断だけで規制できる」
まず前者について言えば、すでに述べた通り、全てがEUのために使われているわけではなく、直接投資やEUからの補助金という形での割り戻しを度外視した金額であった。
ちなみに、英ポンドは国民投票後に120円台にまで暴落したが、この「公約」がなされた当時は170円近かった。つまり、資金不足に悩むNHSに、毎週およそ600億円を供給できると、離脱派は訴えたのだ。当然ながら、これは空手形もいいところであった。
離脱派の旗振り役であった、英国独立党のナイジェル・ファラージ党首など、この公約についての質問には、「私は言った覚えがない」、「公約と受け取られたとすれば、それは離脱派の誤りであった」などと、もはやどこかの知事状態。その上、さっさと党首を辞任してしまった。勝ち逃げとは言うも愚かで、これこそ責任ある政治家の態度ではあるまい。
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