仏ニーステロとトルコクーデター未遂の共通項
Japan In-depth / 2016年7月19日 0時0分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年7月18日-24日)」
先週は欧州・中東が大きく動いた。14日夜に地中海沿岸リゾート・ニースで大型トラックを使ったテロが起き、翌15日夜にはトルコで軍の一部によるクーデター未遂事件が発生した。これらは一見別個の事件にも思えるが、現代史的には微妙に通じ合っている。今週はその共通項である「ダークサイド」に焦点を当てよう。
まずは、フランスから。31歳の容疑者はチュニジア出身の暴力的で世俗的な男だったようだが、犯行までの数週間で急激に「過激化」していったようだ。今年4月からモスクに通い始め、犯行の2週間前あたりから酒も飲まず、髭を伸ばすようになったという。17日には事件に関連して新たに男女2人の身柄が拘束されたらしい。
歴史を振り返れば、フランス人のナショナリズムの強さには脱帽せざるを得ない。この強烈な自己意識を支えるのはフランス人の自国文化に対する溢れんばかりの自信だろう。しかし、この自信こそが、ルペンのような民族主義者を生む一方で、フランスに夢を託したイスラム教徒の移民たちをも疎外しているのではないか。
要するに、こうしたテロ事件の続発はフランス版「ダークサイドの覚醒」が、単に白人系キリスト社会だけでなく、アラブ系ムスリム社会の中でも、急速に拡大していることを示していると考える。それでは、トルコの場合はどうか。今回のトルコ軍部の一部の動きはトルコの「ダークサイドの覚醒」を反映したものなのだろうか。
答えは「否」だ。むしろ、トルコ版「ダークサイド」は既に覚醒し、政権まで獲得していると見る。エルドアン政権は、伝統的エスタブリッシュメントである「世俗主義と軍部」に対する「イスラムと庶民」の強い怒りによって民主的に選ばれた。1923年の建国以来繰り返された軍事クーデターはこの「ダークサイド」を封じ込める努力だったのだ。
当初エルドアン政権は国民の多くの支持を得た。しかし、同政権が長期化するにつれ、最近では不正腐敗と独裁化が目立つようになった。今回エルドアンはクーデター首謀者として「ギュレン運動」を強く非難しているが、この穏健なイスラム主義思想と軍の伝統である世俗主義に接点はあったのか。実に興味深いテーマである。
現時点での筆者の仮説は以下の通りだ。
①エルドアン政権は民主的プロセスによって「ダークサイド」を基盤に生まれた政権である
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