政党は扇動すれども統治せず? EU離脱・英国の未来像その6
Japan In-depth / 2016年7月25日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
英国の新首相が決まり、政治的混乱はひとまず収束の方向に向かいつつあるようなので、本シリーズも今回で一区切りつけさせていただこう。もちろん、大きな動きがあればただちに速報するが。
EUからの離脱を決定した今、次の国民投票は、英国とEU、それぞれの問題点を浮き彫りにしたと言えるが、英国内で際立っていたのは、かの国の伝統的な政治スタイルである二大政党制が、もはや機能不全に陥ったのではないか、と見る向きが多いことだ。実はこれは、昨今急に言われはじめたことではない。
1979年にサッチャー内閣が誕生して以降、後継者のメージャーと合わせて、保守党は18年の長きにわたって政権の座にあった。1997年、ブレア率いる労働党が政権を奪還したが、今度は後継者のブラウンと合わせて、2010年まで13年に及ぶ長期政権となった。
そして保守党キャメロン内閣は、次の国民投票の結果を受けて辞任するまで6年近く政権の座にあった。第二次安倍内閣成立まで、毎年のように首相が替わっていたわが国とは、政治状況がまったく違うと言えるだろう。ただ、それが必ずしもよいことばかりではない。端的に言うと、政権担当能力のある強い野党が常にあり、日々緊張感を持っての政権運営が求められるという、二大政党制の長所が失われつつあるわけだ。
実際問題として、今の保守党の若手議員には野党経験が、労働党の若手には与党経験がない人が多い。それがEU離脱問題とどういう関係があるのか、と思われるかも知れないが、実は、今次の国民投票の結果を考えるに、既成の政党政治への不満という要素も見逃してはならないのである。
たとえば、離脱派の旗振り役となった英国独立党だが、1993年に旗揚げした当初、かの国のマスコミから「存在自体がジョーク」だなどと言われていた。
それが今や、上院、下院、そして欧州議会にまで議席を有し、地方議会では侮りがたい勢力となった。議員がいずれも、保守党からの鞍替え組であることから、いずれは従前の保守党右派(サッチャー信者の大部分を擁する)が雪崩をうって合流するのでは、などとまで言われている。EUとの妥協を繰り返す保守党への批判票の受け皿となったことは間違いない。
注目すべきは、保守党の党員数の推移で、1950年代には300万人を擁していたものが、キャメロン政権が成立した2010年には17万人(170万人の誤りではない。念のため)にまで落ち込み、現在は13万人を下回っていると見られる。見られる、というのは、保守党側が公式発表をしていないからで、これは、キャメロン首相自身が求心力の低下と受け取られるのを嫌ったからであると、衆目が一致している。
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