15年前の大量殺人から何をくみ取るべきだったのか 障害者施設殺傷事件
Japan In-depth / 2016年7月31日 0時26分
退院や治療終了を決める審判は、単に症状の改善を判断するだけではなく、被害者に対する考え方、病気をいかに理解しているかも裁判官に問われ、審判結果に反映される。司法の関与が明確になり、退院後も保護観察所の指導で通院させることもできるようになった。
法務省によると、17~26年度に同制度に基づき2248人が入院、495人が通院の決定を受けた。うち治療期間中に再び同制度の対象になる事件を起こした者は11人(27年末現在)だったという。「一定の効果はある」と、複数の医療関係者が言う。
ただ、相模原事件の植松容疑者は、異常な行動が数々確認され、傷害事件も起こしていたものの、重大な他害行為を起こしたとはみなされず、医療観察法の対象にはなっていなかった。その場合、精神保健福祉法に基づく措置入院から退院した後、通院を強制したり、行動を把握したりする仕組みはない。
そもそも、最終的に、精神疾患ではなく人格障害と裁判で認定された宅間元死刑囚のような「境界線上の人」の凶行を防ぐ仕組みも、未整備のままだ。
「宅間守精神鑑定書」の著者で、宅間元死刑囚の裁判で精神鑑定を担当した岡江晃氏=25年死去=も、著書のなかで、「医療観察法があったとしても付属池田小事件(あるいは類似の事件)を防ぐことは難しかったのではないか」と記している。岡江氏の危惧は現実となった。相模原事件を受け、厚労省は、今回問題となった措置入院の制度や運用の在り方について見直しを検討する方針だ。
「罪の自覚もなしに、刑罰を受けても犯罪は防げない。刑罰と治療を一貫して決める刑法のシステムが必要だ」と訴える専門家もいる。ただ、むろん精神疾患の患者全員が重大な事件を引き起こすわけではなく、患者の治療や入院を強制する制度の強化は、深刻な人権侵害や差別を招くとする声は根強い。そのなかで、少しでも改善につながる具体的な仕組み作りを急がなくてはならない。
付属池田小事件は今年6月、発生から15年となった。犠牲になった8人の同級生は、多くが社会人になる年齢を迎えている。当時8歳だった2年生の娘を失った母親は、「つらくなると、原点に戻ろうと自分に言い聞かせるんです。あれだけ苦しんだあの子のことを思えば、あれ以上苦しいことはないって」と語った。消えることのない、悲しみやつらさを抱えながら、家族との今を、懸命に生きている。事件後に苦労して産んだ長男は、亡くなった姉の年齢を追い越し10歳になった。
宅間元死刑囚があれほどの凶行を引き起こしても、決して壊せなかった家族の確かな15年の営みが、そこにはある。理不尽な凶行によって壊されてはいけない、人々の営みの尊さを、再確認するところから始めたい。
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