米大統領選にロシアが干渉? サイバー攻撃と国際政治の最前線
Japan In-depth / 2016年7月31日 18時0分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
米国大統領選で民主党大会が始まる直前、機密文書を公開することで有名なウィキリークスが、民主党首脳部がバーニー・サンダーズ候補の選挙キャンペーンの足をすくう行為を行っていたことを示す2万に上る電子メールを暴露し、民主党大会を仕切るはずだったデビー・ワッサーマン・シュルツ民主党委員長が大会前に辞任を表明する事態が起きた。
そして、電子メールを盗み取ったのがロシアの諜報機関だという民間のサイバー調査団体の分析結果が公表され、これは、米国の大統領選に対するロシア政府の明らかな干渉だとの非難が相次いだ。連邦捜査局(FBI)も調査に乗り出した。
この暴露に対し、ドナルド・トランプ共和党大統領候補は、ロシアは競争相手のヒラリー・クリントン民主党大統領候補のメールにサイバー攻撃をかけ、国務長官時代に自分のサーバーを使っていた時のメールでまだ公表していない3万3千ものメールを暴くことを奨励するメッセージをツイッターで流した。これに対して、トランプがロシアを使って米国の大統領選で自らの立場を有利にしようとするものだとして、民主党だけではなく、共和党内からも懸念の声が出た。
トランプは、これ以前、ロシアのクリミア併合を容認するような発言もしており、さらに、北大西洋条約機構(NATO)に対してもその意義を疑問視し、バルト三国などのNATOのメンバーがロシアに攻撃された時には自動的に介入しない可能性もほのめかしていることから、ロシアから見れば、ロシアに対して強硬路線を取るクリントンよりもトランプの方がずっと御しやすいことは明白となる。そのため、民主党に不利となる情報を民主党大会直前に公表することによって、間接的にトランプを支援することになる、というものだ。
問題は本当にロシアが電子メール公表事件に関わっていたのかどうかである。サイバー攻撃分析を行う民間団体のクラウドストライク社は、その報告の中で、公開された文書で使われたコードやメタデータを分析した結果、ロシア連邦保安庁(F.S.B.)とロシア連邦軍参謀本部情報総局(G.R.U.)が民主党のメールにアクセスしていたとした。F.S.B.は「コージー・ベアー」あるいは「APT29」としても知られており、G.R.U.は「ファンシー・ベアー」あるいは「APT28」としても知られている。
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