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人権侵害事件の黒幕、入閣の怪 インドネシア・ジョコウィ大統領の胸中 その2

Japan In-depth / 2016年8月9日 18時0分

こうした背景から、庶民派大統領ではありながらジョコウィ大統領は政権発足当時から国軍出身者であるリャミザード・リャクード国防相(元陸軍参謀長)、ルフト・パンジャイタン政治法務治安担当調整相(元陸軍特殊部隊)らを閣僚に据える国軍シフトを取ってきた。今回の内閣改造でさらに国軍出身者としては「重鎮」のウィラント氏を入閣させることで、国軍への配慮と同時に政府の実力者として国軍への“重し”の役割を果たしてもらうことで政権の安定を図る狙いがあるというのがこの説の根拠だ。

■経済最優先で人権は後回し?深謀遠慮?

ジョコウィ大統領は今回の内閣改造で「経済政策重視の姿勢」を明確に示し、経済閣僚の抜擢、再配置に最大限の精力を注ぎこみ、どうもその他の人選にはあまり配慮しなかった可能性も指摘されている。つまり、①で指摘した政党間のバランス配慮による政権基盤の安定を最優先に考えた結果、米政府始め内外から思いもかけない批判を浴びることになってしまったというのだ。

しかし、表面的には飄々として庶民派大統領の役割を演じながらも、肝心のところでは頑固に自分の思いを貫く覚悟と度胸、と同時に人の意見にも虚心坦懐に耳を傾けるという硬軟両用を併せ持つジョコウィ大統領だけに②や③の背景も完全に否定できないというのがどうやら真相のようだ。

国際社会や関係国の懇請にも関わらず外国人麻薬犯死刑囚への刑の執行、インドネシア領海や排他的経済水域(EEZ)で違法操業する中国をはじめとする外国漁船の拿捕、乗員の拘留、没収船舶の爆破破壊。高速鉄道計画では安全面・技術面での格段の優位が日本にはあったにも関わらず、側近の意見を取り入れて中国に発注を決める、などなどその決断力、柔軟性は随所で発揮されている。そうした最近のジョコウィ大統領の言動を考えると今回のウィラント氏の入閣を単純に「人権後回しの政治優先」とも即断できず、大統領の胸中に人知れぬ「深謀遠慮」があり、それに基づく英断なのかもしれないと思える。

得体のしれない深く遠い考え、でも意外と単純明快な思いの可能性も否定できない、まさにインドネシア流のジョコウィ大統領によるウィラント氏抜擢と言えよう。

 

(注1)930事件

1965年9月30日に起きた軍事クーデター未遂事件で、国軍の一部がアフマド・ヤニ陸軍司令官など将軍6人を殺害、政権奪取を画策した事件。当時のスカルノ大統領の容共姿勢からインドネシア共産党関与が濃厚として事態の収拾に乗り出し、実権を掌握したスハルト陸軍少将による首謀者の軍人、共産党幹部、そして共産党支持者、シンパなどが多数虐殺された。その数は50万人とも300万人ともいわれ、真相解明はほとんどなされていない。

(その1の続き。全2回)

トップ画像:民主化の過程で発生したスマンギ交差点事件では学生と治安部隊が流血の衝突を繰り返した(負傷した学生を運ぶ警官隊)©大塚智彦

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