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ドーピングの誘惑 選手の倫理観は無力

Japan In-depth / 2016年8月17日 21時15分

ドーピングの誘惑 選手の倫理観は無力

為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

スポーツ仲裁裁判所が却下したので、ロシアは国家として正式に陸上競技に出場できなくなった。今や陸上だけではなく、ロシアの他の競技にも組織的ドーピングの疑いがかかっている。国としては自業自得という面もあるが、巻き込まれた選手にとってはたまったものではない。みんな五輪に出たくてたまらないはずだろう。

一方で出場を辞退しているアスリートも多い(テニス、ゴルフ)。 出たくてしょうがない選手、治安やジカ熱を懸念して出場を辞退する選手。興味深いのは辞退をしたアスリートが、プロ競技の選手であるということだ。彼らとしても五輪は重要なのだろうと思うけれども、いわゆるプロではない五輪競技ではまだ辞退者が出ていないことを考えると、五輪系競技とプロスポーツの間になんらかの違いがあるように思う。

プロスポーツというものはすでにそこに市場が存在している。プレイをするだけで、チームから、または大会から賞金が支払われる。もちろん、スポンサーからの収入も大きいが、彼らは日常的に試合が行われていてそれがメディアを通じて広く知らしめられている。だから仮に五輪に出場しなくても、露出の量にはさほど影響がないし、試合の賞金の面から考えても、スポンサーからの収入を考えても大した影響はないのだろうと思う。

また、プロ選手は、そもそも試合自体が世界中様々な国で行われるのもあって、生まれた国、住む国(試合数が多く年間の半分住まないことも多い)、試合する国、税金を収める国(これは最近は厳しいだろうが)がバラバラであることもある。プロは国家に縛られにくい。

五輪系競技も今では随分と稼げるようになっているが、競技から直接お金がもらえる仕組みがあるものはほとんどない。例えば比較的プロ化している陸上競技であっても、本当のトップ以外は賞金だけで食っていくのは難しい。私であれば、現役時代賞金はだいたい一試合で稼げる額が平均して3000-4000 ドル(当時のレートは120円程度)だった。この中からエージェントに支払い残りが手元に残る。賞金だけで言えば年間300万もあるかどうかだったと思う。私の世界ランキングは5-15位の間を行ったり来たりだった。

五輪系競技にとって大きいのは競技そのものから得られる金銭ではない。五輪や、世界大会で(アマチュア競技は日常の試合が露出されにくいために、五輪での結果の比重が相当大きい)結果を残し、その勝利と名誉を換金することで、スポンサーや国からなんらかの具体的なものが得られる。

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