米人青年北朝鮮拉致事件、議会に動き 日米連携も
Japan In-depth / 2016年8月18日 11時49分
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
北朝鮮による日本人拉致事件への解決に役立ちそうな動きがアメリカで輪を広げ始めた。
日本人被害者と同じように北朝鮮政府工作員により拉致されたとみられるアメリカ人青年の本格調査を求める署名運動がアメリカ側の草の根レベルで始まったからだ。アメリカが公式に北朝鮮による自国民の拉致を認めて、その奪回を目指すようになれば、日本にとっても強力な支援となるわけである。
この署名運動を始めたのはワシントン地区に本部をおく民間人権擁護団体の「北朝鮮自由連合」(スザンヌ・ショルテ会長)で、具体的には「デービッド・スネドン氏の失踪への懸念表明」決議案の採択への賛同署名を一般に求めていた。署名の訴えは8月17日に公表された。
この決議案はユタ州選出の議員たちが主体になって今年2月に上下両院に同時に提出された。その内容はユタ州出身のスネドン氏が2004年8月に中国の雲南省で行方を絶った事件に対し、「北朝鮮工作員に拉致され、平壌に連行された疑いが非常に強いためアメリカ政府機関による正式の調査を求める」ことをうたっていた。
当時、24歳のアメリカの大学生だったスネドン氏は中国を短期の予定で旅行中に雲南省の名勝地、虎跳渓で行方不明となった。その後、家族の調査などで北朝鮮工作員に誘拐された疑いが濃いことがわかった。
ユタ州選出のマイク・リー上院議員らが出した決議案はスネドン氏が北朝鮮へ拉致された可能性が高い理由として(1)雲南省の同地域は脱北者やその支援者の通り道とされ、北朝鮮工作員が活動し、脱北者支援の外国人も拉致もしていた(2)日本の民間組織から「アメリカ人大学生が雲南省で北朝鮮に拉致された」という情報があった(4)北朝鮮政府は軍の要員に英語を教えてきたアメリカ人チャールズ・ジェンキンス氏が前月に出国し、後任が必要だった――などと指摘していた。
その上で決議案はアメリカ政府機関に対し日本や中国と協力して調査を進めることを求めていた。スネドン氏は現在、平壌で北朝鮮の軍要員らの英語教師をさせられている可能性が高いのだという。
スネドン氏の失踪から11年以上が過ぎてから決議案が出されたのは、国務省が当初、中国側の「彼は川に落ちたらしい」という説明を額面どおりに受けとめ、「拉致の決定的な証拠がない」として前向きな態度をとらなかったことによる。しかしスネドン氏の家族がその後、現地調査や拉致体験のある日本側関係者との接触で独自の情報を得て、逆に中国の説明こそ「虚構」だと立証したという。
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