安倍首相は議論から逃げてはならぬ 知られざる「王者の退位」その2
Japan In-depth / 2016年8月21日 23時0分
前回、この問題について議論の指針さえも示そうとしない安倍内閣の態度は問題だ、と私が述べたのは、話がここに繋がってくる。自民党が野党であった当時、天皇を国家元首にするという「憲法改正草案」を取りまとめたことを、多くの国民は忘れてなどいない。
一方では、第二次安倍内閣が誕生してから、改憲論議はひとまず後景化してしまい、アベノミクスで経済を建て直すのだ、と連呼して選挙を乗り切るたびに、特定秘密保護法、安保法制と、憲法を骨抜きにするような法案をゴリ押ししてきた姿も、これまた忘れてなどいない。
だから、いわゆる改憲勢力がとうとう3分の2を占めた今、あらためて天皇を元首とし、国軍を創設するという憲法改正案を発議するのであれば、まだ話は分かる。
そのような憲法を国民が歓迎するか否かは、まったく別問題であるが、少なくとも憲法改正を目指してきた政治家として、筋は通る。
そこに降ってわいたのが、今次の「生前退位のお考え」であった。
これで、天皇条項(皇室に男児が誕生したので、女系天皇を巡る論議は棚上げとなった)や国軍の創設(安保関連法案の成立により、自衛隊が海外で戦闘行為ができるようになったので、9条改正は急がなくてもよい)は棚上げにしてしまい、理解を得られそうな「大震災などを想定した緊急事態条項」のみを盛り込んだ憲法改正案を通せれば、安倍首相は改憲を成し遂げた「大宰相」として名を残せる、というシナリオは成立しがたくなった。
前回も述べたが、82歳という天皇の年齢を考えれば、議論の引き延ばしなど許されることではない。かと言って、天皇条項にまで踏み込む憲法改正が、今の政治状況で本当に可能なのか。
安倍首相本人としては、大いなるジレンマを抱えて悩ましいところであろうが、あまり同情の余地はない。この議論から逃げるようでは、大宰相を目指すなど、おこがましいにも程がある、という話なのだ。
(その1もあわせてお読み下さい。)
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