マルコスは独裁者か英雄か フィリピン“英雄墓地”埋葬問題
Japan In-depth / 2016年9月24日 19時0分
大塚智彦(Pan Asia News 記者)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
9月28日はフィリピンの故フェルナンド・マルコス元大統領の命日である。1989年に亡命先のハワイで死去して以来、毎年巡ってくる命日だが、今年は例年とは異なり命日を前にマニラ市内などで「反マルコス」の集会やデモが頻発している。それはマニラにある「英雄墓地」にマルコス元大統領を埋葬することの是非についての賛否が渦巻いているからで、いわば「英雄」なのか「独裁者」なのかという評価を巡る熱い議論が噴出、今なおマルコス評価が「棺を蓋いてなお定まらず」状態にあることを示しているのだ。
マルコス元大統領の遺体は、ルソン島北部北イロコス州バタックにある実家敷地内の「マルコス記念博物館」に隣接する特設霊廟に冷凍保存されており、いつでも英雄墓地に移動して埋葬が可能な状態を維持している。遺体はマルコス一族、そして熱烈な支持者の熱望でもある「英雄墓地」という安眠の地への埋葬を実に27年もの長い間待ち続けて今も仮の眠りについているといえる。
冷凍遺体は一般公開されており、荘重な音楽が流れ冷気に満たされた廟内部で特殊保存措置がほどこされた遺体と対面することができる。以前イメルダ夫人が訪問してガラス越しにキスをする写真がネットに流出してから監視が厳重になり、内部は撮影厳禁となっている。
■ドゥテルテ大統領の容認で事態が急転
9月22日、マニラ首都圏ケソン市ウェルカム・ロトンダ広場からマニラ市メンジョラ橋まで約5000人の市民が行進した。掲げたプラカードや横断幕に「マルコスは英雄ではない」などと書かれていたように、マルコス元大統領の英雄墓地反対を訴える市民のデモ行進だった。
こうした英雄墓地埋葬反対のデモや集会は8月14日にもマニラ市のリサール公園で開かれ約1500人が参加。この日同じような反対集会はルソン島北部のバギオ、ミンダナオ島のダバオ、ビサヤ地方のセブなどでも開かれ、フィリピン各地で市民が反対の声を上げた。
これは6月30日に就任したドゥテルテ大統領がマルコス元大統領の遺体の英雄墓地埋葬を容認したことがきっかけとなっている。フィリピンの歴代大統領に対し、妻のイメルダ下院議員、長女のアイミー北イロコス州知事、長男でこの間の大統領選で副大統領に出馬したフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)上院議員ら政界に依然として影響力を残すマルコス一族、出身地の北イロコス州を中心とする熱烈なマルコス信者らは「英雄墓地埋葬」を長年強力に要請してきた。しかし、マルコス時代に抑圧を受けた学生、人権活動家、野党勢力など幅広い市民の間に残る根強い「反マルコス感情」に配慮して、どの大統領も決断することができなかった経緯がある。
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