日本の社会科学が国際化できないわけ
Japan In-depth / 2016年10月1日 11時0分
渡辺敦子(研究者)
「渡辺敦子のGeopolitical」
先日、筆者は、日本の大学の世界大学ランキング低迷の理由のひとつとして、社会科学の評価の低さを指摘した。手元に、日本学術振興会が平成23年にまとめた「人文学・社会科学の国際化について」という報告書がある。東洋史学、社会学、政治学の3つについてそれぞれの分野の研究者が討論を重ねてまとめたもので、なかなか興味深い。
たとえば、日本の社会学者は3600人、世界の10パーセントと推測されるが、研究の重要性の指標とされる引用率(ほかの論文で研究が引用される率)は1%をはるかに割っているという。本稿ではこれに関連して、この「引用」に焦点を当てて日本の社会科学の国際化について考えてみようと思う。少々専門的な話になることを最初にお断りしておく。
報告書の指摘する問題点はあまりに多様で、一言では括れない。それでも浮かび上がってくるのは、最大の壁は「言語」であるという至極真っ当な話で、知り合いの日本人大学教授によると、スーパーグローバル化を目指す各大学はとりあえず、既存の研究を翻訳する努力をしているようだ。この努力はもちろん必要であろうと思うが、日本の外から見ると、最大の壁はむしろ、日本の社会科学の「ガラパゴス化」であるように思う。
以前も触れたとおり明治期に高等教育機関を設立して以来、日本の学問は「翻訳主義」を取ってきた。報告書も指摘するが戦後、日本の社会科学はフィールドワークを重んじる実証主義的傾向が強まった。このため独自の理論はほとんど生み出さず、外国からの借り物に頼ってきた。あまり指摘されない肝心な点は、これらの「輸入」理論は日本語に翻訳され咀嚼されてきたため、実は、欧米での議論とはズレたものになりやすい。つまり、理論とは社会科学における共通言語だが、この共通言語は気づかぬうちにいわば(まさにスーパーグローバルのように)「ジャパングリッシュ」化しており、共通言語の役目を果たさないことがある。言い換えれば、日本で語られるミッシェル・フーコーは、英語圏の学者が理解するフーコーとは微妙にずれている。報告書の中に「日本の中で最先端にいると考えていた者の研究も、外国に出てみたら、共感の得られない裸の王様であったということがある」とあるが、これはおそらくその例であろう。
また、ガラパゴス化は、日本人が海外の議論に応じないことでさらに促進される。報告書では、過去に、土居健郎の「甘えの研究」について、国際的に注目され海外から反論を含めたさまざまな意見が出てきても、当の研究者がその誘いに応じないため、議論に発展しなかった例を指摘している。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
因果革命で切り拓かれた、人文社会科学での数理的素養の可能性
PR TIMES / 2024年11月15日 14時40分
-
アクセンチュア、京都大学と包括連携協定を締結
PR TIMES / 2024年11月14日 18時15分
-
早稲田大学の研究者が学問の魅力を語るPodcast番組 ”博士一歩前” 新シリーズ配信開始
共同通信PRワイヤー / 2024年11月14日 11時0分
-
中日の学者、相手国を研究する上での相互参照の重要性を強調
Record China / 2024年10月29日 18時20分
-
【騙されないためには、そのトリックを知ること!】気候変動問題をきっかけに、誤情報、認知バイアス等の基本を学べる入門書『世界一クールな気候変動入門──情報を正しく判断するために』、10月29日発売。
PR TIMES / 2024年10月29日 11時15分
ランキング
-
1政府が政労使会議開催、石破首相「今年の勢いで大幅な賃上げを」
ロイター / 2024年11月26日 13時46分
-
2米海軍哨戒機が台湾海峡飛行、中国軍は「大げさな宣伝」と反発
ロイター / 2024年11月26日 18時33分
-
3【速報】韓国外務省が「日本が見せた態度」への遺憾を日本大使館に伝える 「佐渡島の金山」の追悼式に不参加
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月26日 15時4分
-
4トランプ2.0、強気の「MAGA」が逆目に出る時
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月26日 14時0分
-
5電動キックボードに4人乗りも…車との衝突など事故の件数は6年間で20倍に 韓国で規制強化
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月26日 18時32分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください