「自衛隊の駆けつけ警護」は本末転倒 自壊した日本の安全神話 その9
Japan In-depth / 2016年11月4日 11時47分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
日本は治安のよい安全な国だ、と言われてきたものが、最近どうも信じられなくなってきている、との話を続けてきた。折も折、昨年の安保法制成立を受けて、南スーダンにおけるPKO活動に従事する自衛隊に対し、新たな任務として「駆けつけ警護」を付与する準備が進んでいる。
国連職員や、他国の警察部隊が武力攻撃を受けたような場合、自衛隊が応戦したり、暴徒鎮圧などの任務も行うのが、駆けつけ警護の具体的内容だ。現政権、とりわけ稲田防衛大臣のこれまでの姿勢から考えて、国会などで多少の反対論が出ようとも、強引に事を進めるのではないか、と見る向きが多い。
また、消息筋によれば、自民党内においては、くだんの安保法制成立を受けて、「憲法9条に改正には、まだ当面、踏み込まなくてよい」
という声も聞かれるようになってきた、という。これまで、世に言う解釈改憲でもって、徐々に自衛隊の軍事的機能を拡大してきたわけだが、とうとう海外での武力行使までが可能となった。
そうであれば、改憲反対論の焦点となるであろう9条の問題は当面棚上げとしてしまい、公明党がかねてから主張している「環境権」の付与とか、国民の理解が得られやすい改正を実施すればよい。まずは「日本国憲法を改正した」という既成事実を作りたいのであろう。こういう態度が、国際的な信用問題になりかねず、また現場の自衛隊員をきわめて厳しい立場に追いやる、ということが、どうして理解できないだろうか。
まず大前提として、私はPKO活動そのものには賛成である。これは戦争と違い、治安が不安定な国において、選挙やインフレ整備などを安全に遂行するための、国際的な警察活動と言うべきものだ。その名も「国際平和維持活動」である。だからこそ、実際に内戦が続いているような国や地域においては、この活動は継続不可能とされ、武装した国連治安維持部隊の出番となる。こちらは、名前こそ治安維持であっても、れっきとした軍事活動なのだ。
ここまで読まれた読者諸賢は、私がなにを言いたいか、もうお分かりであろう。安保法制下にあろうとも、自衛隊は依然として憲法の制約下にあり、日本国政府はこれを軍隊であると認めていない。にも関わらず、法的にも機能の面でも軍隊にしかできない駆けつけ警護を、自衛隊に担わせようとしている。これのなにが問題かと言うと、たとえば自衛隊員が武装勢力によって捕らえられる、という事態が生じたような場合、国際法上、捕虜としての扱いを求めることが難しい。端的に、正規軍の軍人でない人間が武装して攻撃を加えてきた(相手方から見れば)、となった場合、これはテロリストと同列に見なされ、問答無用で射殺されても致し方ない。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
北朝鮮軍がロシアで強くなるのは「決して座視しない」──駐英韓国大使
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月19日 21時1分
-
北朝鮮の欧州派兵は第2次朝鮮戦争の前哨戦? 韓国とロシアの最新兵器が砲火を交える日は遠くない
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月18日 19時34分
-
“平和国家”の暗部に斬り込む衝撃作「火の華」著名人コメント発表 藤原季節「絶対に応援すると決めた」 “壮絶体験”とらえた映像も公開
映画.com / 2024年11月14日 17時0分
-
「北朝鮮軍は世界で3番目に弱い」とした米メディアの分析
デイリーNKジャパン / 2024年11月9日 5時12分
-
アジアは憎しみを乗り越えられるのか=80年前の激戦地・硫黄島で想う―平和的な事態打開策を!
Record China / 2024年10月29日 7時30分
ランキング
-
1池袋暴走事故の飯塚幸三受刑者(93)が死亡 松永拓也さん「後悔や経験の言葉を託された。死を無駄にしたくない」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月25日 11時38分
-
2「佐渡島の金山」の追悼式には不参加 韓国側が佐渡市で独自の追悼行事 《新潟》
TeNYテレビ新潟 / 2024年11月25日 12時1分
-
3ALS嘱託殺人 被告の医師に2審も懲役18年 大阪高裁が控訴棄却
毎日新聞 / 2024年11月25日 10時51分
-
4【スクープ】世耕弘成氏、自らが理事長を務める近畿大学で公益通報されていた 教職員組合が「大学を自身の政治活動に利用、私物化している」と告発
NEWSポストセブン / 2024年11月25日 7時15分
-
5高市早苗氏はいつ「タカ派政治家」になったのか…「ポスト石破」に一番近い女性政治家の"克服すべき弱点"
プレジデントオンライン / 2024年11月25日 8時15分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください