日本で成人と言えば20歳である理由 年齢と権利義務の世界事情 その1
Japan In-depth / 2016年11月14日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
2015年に公職選挙法が改正され、今年から18歳以上に選挙権が与えられた。これに伴い、18歳以上を成人として、権利義務の面で一人前扱いしてはどうか、という議論も聞かれるようになった。
そもそも、どうしてこのような法改正が行われたのか、見て行こう。
主たる理由はふたつ。
ひとつは、18歳以上を成人と見なすのが世界の大勢だから、ということ。たしかに、世界189カ国のうち、実に170カ国が18歳以上の国民に選挙権を付与している。OECD(世界開発協力機構)に加盟している国の中では、18歳になっても投票できなかったのは日本と韓国だけであった。
いまひとつは、若い世代にもっと政治に関心を抱いてもらいたい、という理由。後者の問題は意外と深刻で、超高齢化社会とまで言われるわが国にあっては、若い世代の意見が、なかなか政治に反映されにくい。多くを語るまでもなく、政治家はどうしても「票になる」層の声に耳を傾けがちなのだ。
今回着目したのは前者の方で、どうして日本は18歳でなく20歳を成人としていたのか。実は奈良時代以来の伝統であった、と述べたら、驚かれるであろうか。奈良時代と言えば8世紀だが、この時代にわが国の税制や戸籍制度の原型が作られていったことは、よく知られている。と言っても大半は、中国大陸の制度を真似たものであった。読者補検察の通り、21歳に達した男子を丁年と呼び、一人前の男性と認める思想も、中国大陸から伝わった。ただしこれは「数え年」なので、満年齢だと20歳になる。当時は今よりも平均寿命がだいぶ短かったはずだから、満20歳でようやく一人前というのは、少し遅いような気もするが、では具体的に何歳から一人前と見なすべきか、と問われたなら、論拠など見つけがたい。
とは言え、この丁年は社会の現実と合致しておらず、単に慣例的な呼び名に過ぎなかった。これは、時代が少しくだって武士の世の中になると、13~16歳で「元服」すなわち今で言う成人式を迎えるようになったという事実によって証明されよう。明治時代に、近代日本の諸制度が形成されていった時、あらためて丁年の思想を持ちだし、20歳をもって成人と定義するようになったのである。10代半ばで元服していた江戸時代までの制度などは、一顧だにされなかった。
ただし選挙権について言えば、長きにわたって満25歳からであった。それも男子に限られ、なおかつ1889(明治22)年にはじめて選挙権が付与された時には、直接国税(今で言う所得税)を15円以上納めている者、という条件があった。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
『キングダム』の呂不韋は始皇帝嬴政の母と密通していた…人心掌握に優れたキングメーカーの光と影
プレジデントオンライン / 2024年7月14日 8時15分
-
貧困、肉体的・精神的虐待「児童婚の悪夢」...2000~18年の未成年の結婚は全米で約30万人
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月11日 11時38分
-
石丸躍進の原動力「やわらかいSNSファンダム」を考える
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月9日 9時42分
-
台湾総統「独裁が真の悪」、中国の分離独立派処罰指針受け
ロイター / 2024年6月24日 12時34分
-
「無法地帯の都知事選」"悪用する者"多発の必然 今回の選挙で"制度の穴"が浮き彫りになった
東洋経済オンライン / 2024年6月24日 9時0分
ランキング
-
1米民主重鎮、決断を称賛=ハリス氏支持で対応分かれる―バイデン氏撤退
時事通信 / 2024年7月22日 9時50分
-
2パリ五輪、4355人を「脅威」として排除 仏内相明かす、大会の治安対策で
産経ニュース / 2024年7月22日 11時27分
-
3北朝鮮エリートの脱北ラッシュ、なぜ外交官なのか…海外生活で「目覚めた」
KOREA WAVE / 2024年7月22日 16時30分
-
4バイデン氏の撤退決断、米主要紙が評価 「勇気ある選択」「米国の最良の利益」
産経ニュース / 2024年7月22日 19時34分
-
5バイデン氏大統領選からの“撤退表明” トランプ氏「いんちきジョーは最悪の大統領」とSNS投稿
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月22日 11時43分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください