自由貿易を封殺するな 2016年2つのビッグサプライズ
Japan In-depth / 2016年11月15日 11時0分
神津多可思(リコー経済社会研究所所長)
「神津多可思の金融経済を読む」
2016年は、政治・経済の動きについてコメントをする多くの者にとって、かつてない恥ずかしさを覚える年になった。Brexitでは外したが、米国大統領選挙についてはさすがに当たるだろうと思っていた私も、11月9日は暗澹たる気持ちになりつつ日中を過ごすはめになった。
いったい何故、大方の予想(それも直前)と実際の結果とがこうも違ってしまったのだろうか。今回の米国大統領選挙で、いかに国民に不満が溜まっていたが改めて明らかになったという後講釈はたくさん聞こえてくる。
先の国際金融危機を生んだ経済運営の手法は、きちんと是正されたか。技術的な議論はたくさんあるが、一般市民の眼から見れば、もう大丈夫という雰囲気ではない。また、ある意味、金科玉条とされてきた市場化、グローバル化の流れの中で、その恩恵を受けることができたのは結果的にごく一部であり、中間層に位置する人々は少しも豊かにならなかった。
そういう状況の中で、矛盾をはらんだ現実を作り出すことに与して来た側の候補が否定され、それに挑んだ側の候補に軍配が上がった。候補の人柄や能力が評価されたわけではない。それが今回の米大統領選挙だったのだと思う。
世界の歴史を振り返っても、市場メカニズムをより徹底し、自由貿易による恩恵を全体として享受しようとする動きに反動が起きたことがある。19世紀後半から、英国の海上覇権、金本位制度の確立といった環境の下で、世界の貿易・投資は目覚ましく活発化した。しかし、当時でも十分に制御できなかった市場メカニズムは1929年の世界大恐慌に行き着き、その後は自由化・グローバル化に対する大きな反動が起こった。悲惨な2度の世界大戦も起きた。21世紀に同じことを繰り返してはならない。歴史に学ぶとすれば、現在、先進国の随所でみることができる市場メカニズム・自由貿易への反動の萌芽に対し、思慮深い対応が必要ということになる。
Brexitの国民投票においても、今回の米国大統領選挙においても、多くの市民が持っていた心情に対し、アカデミズムもエコノミストもアナリストもマスコミも、みな鈍感で、自分たちの「村の論理」を振り回していたと言われても仕方がない。その鈍感さが、長い目でみれば皆にメリットをもたらし得る「市場メカニズム・自由貿易をさらに使っていこう」という動きを封殺してしまわないか。いま懸念すべきはそこである。
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