トランプで石炭の復権なるか?
Japan In-depth / 2016年11月24日 23時0分
山本隆三(国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授)
米国に駐在し、米国から日本と欧州向けに石炭を輸出する仕事に携わることになった時に、駐在地として選択された事務所はピッツバーグだった。東部アパラチア炭田の中心都市であり、かつてはオハイオ河などを利用した石炭と鉄鉱石の輸送が行われ、鉄鋼生産で栄えた街だ。
いまもペンシルバニア州の石炭生産は、日本の最盛期の生産量とほぼ同じ年産5000万トンあるが、ピッツバーグの鉄鋼生産は衰退し河沿いには廃墟となった製鉄所が残るだけだ。街は、臓器移植で著名なピッツバーグ大学と人口知能のカーネギメロン大学を中心に医療と教育の街に変わった。
アパラチア炭田北部のペンシルバニア、オハイオ、バージニア州は、大統領選の時に接戦州として共和党と民主党の票が拮抗することで知られている。特に、全米の縮図といわれるオハイオ州で負ければ、全米でも負けるのが過去の歴史だった。
2012年の大統領選時、アパラチア炭田北部の接戦州では石炭産業で働く人の票の奪い合いが顕著だった。オバマも共和党のロムニーも露骨に炭鉱夫の歓心を買おうとしていた(オバマとロムニーの石炭戦争)。結果、オバマがペンシルバニア、オハイオ、バージニアの3州を僅かの差で制し、2期目を務めることになった。
今年の大統領選では、石炭に対する候補者の対応は分かれた。温暖化問題に関心の薄いトランプは石炭支援を強く打ち出し、オバマのクリーンパワープランの廃止を謳った。一方、クリントンは、クリーンパワープランの継続、石炭産業が衰退した後の地域支援策を打ち出した。補助金による年金維持、学校の維持、インフラ整備などがその柱だった。
結果、クリントンはバージニアを制したものの、オハイオ、ペンシルバニア両州をトランプに奪われた。この両州をクリントンが制していれば、大統領選の結果は逆になっていた。石炭産業に対する政策が、ひょっとすると、大統領選の結果を変えたのかもしれない。
トランプは勝ったが、石炭支援策をどう実行できるのだろうか。具体策はこれから作られることになる。今までの、石炭消費と生産の落ち込みはオバマの政策のためではなく、市場での価格競争力を石炭が天然ガスに対して失った結果だった。かなり大胆な策がなければ石炭は復活しないだろう。
米国の発電源別の発電量では90年代には50%あった石炭火力の比率は、シェール革命により天然ガスの生産が増加を始めた2000年代後半から減少を続け、2015年には図-1の通り、33%まで落ち込んだ。今年8月までの発電量は石炭29.6%、天然ガス34.7%となっており、今年は天然ガスに発電量を抜かれると見られている。
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