革命による世紀の悲劇 共産党は裏切る ベトナム戦争の教訓 その3
Japan In-depth / 2016年12月8日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
最後に登場したズオン・バン・ミン政権は南ベトナム政権やアメリカに対しては批判的な人物たちがほとんどだった。だが大多数は非共産主義者である。それでも解放勢力にとっては「連合」や「統一」あるいは「民族和解」の仲間であるはずだった。だがその解放勢力は戦争の勝利を目前にして初めて「共産主義」への同調が不可欠だという本音を宣言したのだ。そして文字通り、一切の交渉に応じず、降伏にも応じず、南ベトナムの政権と国家自体を完全に粉砕したのである。
北ベトナムの大部隊は四方八方から首都サイゴンに突入し、大統領官邸を占拠した。官邸内で待機したミン大統領はじめ閣僚たちは北ベトナム軍の将兵に罪人のように拘束され、連行された。私もその歴史の舞台の官邸内に入り、ミン政権の幹部たちが留まる一室を白いカーテン越しに目撃した。私はその後も南ベトナムに半年近く滞在して、「連合」や「統一」の冷酷な結末をみた。
北ベトナム側の勝利の大集会で南での長年の闘争の最高指導者として紹介されたのは解放戦線や革命政府の代表ではなく、ベトナム共産党政治局員のファム・フンだった。闘争の主役だったはずの解放戦線や革命政府の代表たちは勝利後まったく正面舞台には登場せず、その後の南北統一でも姿を消して、共産党一党独裁の態勢が築かれていった。
北ベトナム人民軍参謀総長のバン・チエン・ズンらは南での武力闘争は最初から最後までベトナム共産党が推進したと宣言し、勝利の花束をホー・チ・ミン主席とマルクス・レーニン主義と国際共産主義運動に捧げるとうたった。
戦争中に南ベトナム政府やアメリカに抗議し、解放戦線からも歓迎されていたカトリック教徒、仏教徒、民族派など非共産主義の野党的勢力はすべて共産党の新政権下では排除され、弾圧さえ受けるようになった。共産党にとっての「連合」や「統一」のパートナーたちは勝利後は無惨に排除されたのだ。
ベトナム共産党は闘争中は政治理念を異にする勢力とも手を組んだが、完全に勝利した後はその仲間をも仮借なく切り捨てていったのである。最大の基準は共産主義に同調するか否かだった。そして勝利後は共産主義の教理を全面に押し出す革命を進めたのだ。
戦争中の「南ベトナムの人民が政治信念にかかわりなく民族の解放を目指す」という主張を真の主役の共産党自身が「あれは闘争のためのウソだったのだ」と堂々と宣言し、高笑いをする、という結果に終わったのである。
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