日本にふさわしい選挙制度とは 世界の選挙制度その5
Japan In-depth / 2017年1月2日 11時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
本シリーズも今回が最終回となる。締めくくりの意味で、わが国にとって真に望ましい選挙制度とはどのようなものか、考えてみたい。
考えてみたい、と言った舌の根も乾かぬうちにどうかと思われるが、
「万人を満足させ得る選挙制度などあり得ない」ということを、あらためて確認しておきたい。そんなものがあれば、世界中が導入するに決まっているではないか。
海外の例として、英国の単純小選挙区制とドイツの比例代表制を取り上げたが、いずれも批判されるべき点は多々ある。しかし同時に、それぞれの国情にあった制度だと考えられているので、当面大きな変化に見舞われる可能性は高くない。そうであるならば、わが国における現行の選挙制度は、どのような問題点があるのかを、まずは考えるべきであろう。
小選挙区制の利点として、政権交代が起きやすく、その分、政権運営に常に緊張感が生まれる、ということがよく言われる。たしかにわが国でも、2009年に政権交代が起きた。しかしながら、そこで明らかになったのは、政権を取った民主党に政権担当能力が欠けていた、ということではなかったか。
この結果、現行の小選挙区制は、政権与党にとって圧倒的に有利なシステムと化してしまっているのである。健全な議会制民主主義を維持して行くには、政権担当能力のある強い野党が不可欠だが、わが国の場合、まだしばらくの間は、辛抱強く野党にもチャンスを与え続けるしかなさそうだ。民主党政権が生み出された状況がまさにそうであったが、有権者の意識が、「このあたりで一度くらい、民進党にやらせてみようか」といったレベルに留まっていたのでは、政治はいつまでも成熟しない。
では、具体的にどのような選挙改革を行うべきか。私は衆議院をひとまず中選挙区制に戻すことを提案したい。もともと小選挙区制への移行が繰り返し提案されてきた背景には、「選挙にカネがかからないようにしたい」という声があったことは、よく知られている。
しかし、考えてみればおかしな話で、選挙にカネがかかり過ぎるというのは、選挙制度の問題であろうか。また、小選挙区制に移行したことで、有権者への利益供与などの問題はなくなったか。いずれも答えは、「そんなことはない」であろう。それも当然で、政治家や有権者のモラルの問題と、選挙制度の問題を混同してはいけないのだ。
この説明では抽象的に過ぎると思われるかも知れないが、私は、『日本人の選択 総選挙の戦後史』(葛岡智泰と共著・電子版アドレナライズ)という本を書く作業を通じて、敗戦から2010年代までの全ての総選挙を検証した。そこから導き出される結論として、過去の中選挙区制に「選挙制度ゆえの問題」があったとは、どうしても考えられない。本書の親本は平凡社新書だが、電子版は2010年代の民主党政権の総括を追加の上、10年ごとに1冊分という構成にしてあるので、正月休みにでも是非ダウンロードしてご一読いただきたい。
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