「大統領令差止めで米三権分立は機能」のウソ
Japan In-depth / 2017年2月7日 7時0分
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
【まとめ】
・司法が大統領令執行を一時停止したことが評価されている。
・しかし、今回の判決は差別違憲判断を避けている。
・人種差別的移民政策において三権は癒着している。
共和党のドナルド・トランプ米大統領が1月27日に発令したイスラム圏7か国出身者入国禁止の大統領令を、シアトル連邦地裁が2月3日、全米規模で暫定的に差し止める仮処分を下し、その判断を上級審である連邦裁判所第9巡回区控訴裁判所が2月4日に支持した。これを受け、米連邦政府は大統領令の執行を一時停止している。
日本では、「司法の独立が機能している」「司法が、行政府の暴走に歯止めをかけた」「米国は法治国家だ」「米司法の迅速な判断がうらやましい」「まともだ」「行政府と司法府が癒着していない」などの声が一斉に上がっている。
しかも、大統領令の一時差し止めを命令したのが、リベラル派裁判官ではなく、共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領に指名された判事であったことが、「米司法は独立しており、健全だ」との見方をさらに強めている。
しかし、実は米司法は機能しておらず、また、三権は分立などしていない。まず、今回の大統領令差し止めの判決は、差別違憲判断を避けている。判決文は、「これらの国からの移民(がもたらす脅威)から米国を保護するという理由付けには、根拠がない」としながらも、大統領令の手続きの妥当性に焦点を当て、核心問題である同命令の非白人に対する差別性に踏み込むことは避けている。
その理由は、トランプ大統領の大統領令が、ブッシュ元大統領によって最初に発令され、オバマ前大統領の任期全体にわたって維持・強化されてきた「対象国に渡航歴のある者は、米国のビザ免除渡航制度を利用することを禁ずる」「対象国からの入国者には審査を厳重化する」という差別的な大統領令を、「進化」させたものだからである。
もし差別を違憲と認めれば、2001年の同時多発テロ以降の移民政策の不当性にスポットが当たってしまう。だから、シアトル地裁の命令は、差別を廃止する正義のためではなく、ブッシュ・オバマ・トランプ政権の一貫した差別政策が根源的なところで正統性を問われる事態を避け、差別を以前のような穏便な形で温存することが目的なのである。
同様に、大統領令の執行をしないように指示を出し、トランプ大統領に解任されてヒーロー扱いを受けている民主党のサリー・イエーツ前司法長官代行は、オバマ政権時代に差別的移民政策を違憲だとして、執行を止めるよう運動しなかった。それは、民主党政権・共和党政権を問わず、米政府の一貫した目的が、隠れた形での非白人に対する差別の温存にあるからだ。
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