トランプ氏トイレ政策撤回の波紋
Japan In-depth / 2017年2月25日 18時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
トランプ大統領がまた一つ、オバマ前大統領の超リベラル政策を取り消す措置をとった。
オバマ大統領は昨年5月、全米の学校に対して、トランスジェンダー(性同一性障害)の男女が校内のトイレやロッカーを男女の区別なく自由に使えることを義務づける大統領令を出して、かなり広範な反発を受けていたが、トランプ大統領は2月22日、そのオバマ令を破棄する大統領令を出した。
たかが便所や更衣所の使い方でなぜ2人の大統領が激突するのか、といぶかる向きも多いだろう。だがこの一件はアメリカ社会での人間関係を律する習慣や伝統の核心にも触れる重要ケースなのだ。アメリカの保守とリベラルの考え方の違いを映し出すシンボリックな論争の主題でもある。
トランスジェンダーとは、「生物学的な本来の性別と自分で認識する性別が異なる人」というふうに説明される。肉体的には男なのに自分としては女だという自己認識を持つ人を想像すればよい。日本では性同一性障害と訳されることが多いが、厳密には同障害とも異なる部分があるとも指摘される。
だから外見だけでいえば、本来は男なのに女性のようにふるまう、あるいは女性のようにみえる人、あるいはその逆に本来は女性なのに男性として生活している人たちともいえよう。日本でも論じられることが多くなった「LGBT」(性的少数者、つまりレズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の範囲内にも含まれる。
さてアメリカでのトランスジェンダーをめぐる論議は高校生や大学生のそうした人たちが学校での便所や更衣所をどうするか、でも広がった。学校でもどこでも公共の場所では便所は普通は男女の別が厳格である。トランスジェンダーでも生物学的な性別に従って、当初は男女のトイレを使うのが一般慣習に沿うとされた。だが本人たちは外見が本来の性別と異なるのだから、異性用のトイレを使いたいという場合がほとんどだった。
こうした背景のなかでオバマ大統領は2016年5月、全米の学校に対して、「トランスジェンダーの人たちがトイレとロッカーの使用は自由に選べるようにする」措置をとるよう命令を出した。厳密には「大統領覚書」という指令だが、連邦政府の指示と同様の効力を持つとされる。全米の学校はそれに従い、ジェンダーフリーのトイレやロッカーを新設したり、トイレに男女いずれも自由に使えることを明記するなどの措置をとった。
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