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王家の家督争い 金正男氏暗殺 暗殺の世界史入門その1

Japan In-depth / 2017年2月26日 7時0分

王家の家督争い 金正男氏暗殺 暗殺の世界史入門その1

林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

2月13日、金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害されたとの速報が飛び込んで来た。マレーシアの首都クアラルンプールの国際空港で、搭乗手続き中に毒針もしくは毒物をしみこませた布で襲われたらしい。北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)委員長の異母兄である。

2001年に、中米ドミニカ共和国のものに似せた偽造パスポートで日本入国を図って摘発され、国外退去処分を受けたことで知られる。本人曰く、東京ディズニーランドに行ってみたかった、とか。

2011年暮れに他界した先代の指導者、金正日(キム・ジョンイル)氏の長男であることから、有力な後継者候補との呼び声もあったが、本人はどちらかと言うと、権力を世襲することに、あまり前向きでなかったらしい。

そうした情報もあったせいなのか、事件から数日の間、日本のマスコミでは「北朝鮮が本当に関与しているのかどうか、現時点では不明」

という慎重な報道姿勢が見られた。直接実行犯とされたグループが所持していたパスポートが、ベトナムやマレーシアなどであったことも、報道が混乱させられた理由のひとつだろう。

いずれにせよ、東アジアの将来を考える上で無視できない人物が殺害されたわけだから、やたらセンセーショナルに取り上げるのでなく慎重な報道をするのは、悪いことではない。ただ、そのことを重々理解してもなお、失笑せざるを得ないようなコメントがあった。たとえば、「闇から闇へ葬ることもできたはずなのに、白昼堂々の犯行には違和感を感じる」などと述べたコメンテイターがいた。

ジョン・F・ケネディ米大統領など、パレードの途中、文字通り衆人環視の中で狙撃され、その映像まで世界に配信されたではないか。

これは決して、揚げ足取りのようなことではない。暗殺か否かを考察する場合、手口などはさほど重要ではなく、動機こそが問題であると、私は言いたいのだ。

今この時点で、金正男氏を殺害する動機を持つ者は誰かと言えば、第一に思い浮かぶのが、異母弟である金正恩委員長である。本人の意志がどうであれ、長兄である正男氏を担いで自分の権力を奪取しようとする勢力が現れるのではないかーーそうした猜疑心に正恩委員長が取りつかれていた、という推測を妨げる材料は見当たらない。

19日夜になって、マレーシアの捜査当局は、この殺害事件で指導的な役割を果たしたと思われる北朝鮮国籍の男4人を特定したものの、すでに平壌に脱出されてしまった可能性があることを認めた。

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