アメリカのシリア空爆は合法か 続編
Japan In-depth / 2017年4月10日 18時0分
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・米の軍事行動、国際法上無理がある。
・中東における米の政治的回帰が行われた。
・今後、米露の緊張は高まる。
■ シリア空爆に対する説明
今回のアメリカのシリア空爆に関し、トランプ大統領は、4月8日の議会への書簡の中でその理由を説明している。先ず、アメリカの諜報機関の結論として、シリア政府軍が化学兵器を使用したことを挙げ、さらなる化学兵器の使用能力を削ぐこと、シリア政府による化学兵器の使用や拡散しないよう分からせることにより、地域の安定を促進し、地域の破局的人道状況がさらに悪くなるのを防ぐ狙いがあったことを指摘している。
また、今回の行動がアメリカの安全保障と外交政策にとって死活的利害があり、そのために行動したとしている。(国内的には、外交の権利と軍の総司令官としての憲法上の権限に言及している。これは、議会の戦争宣言の権限との兼ね合いで、大統領の権限を主張したものである。)何故アメリカの安全保障と外交政策にとって死活的利害なのか。また、一方的な軍事行動をどう国際法上説明するのかについては明確な説明はない。
■ 国際法上無理がある米の空爆
トランプ大統領が化学兵器で苦しんでいる一般市民や子供の姿を見てそれまでの不干渉の態度を変えたことは知られているが、これがアメリカの安全保障にどのように関係があるのかである。
国際法上自衛権の行使のための武力の行使は認められているが、シリアでの化学兵器使用はシリア国民に向けられたものであり、アメリカを狙ったものではない。従って、アメリカの空爆を自衛権の行使で説明するのには無理がある。敢えて自衛権につなげるのであれば、化学兵器禁止条約で禁止されている化学兵器の使用に対し何等の国際的対応がないと、このこと自体が化学兵器の拡散や使用に繋がり、それがいずれ米国の安全保障にも影響を与えうるという方が説明になる。ただ、それだけの議論で本当に米国の一方的な武力の行使が国際法上正当化できるかどうかということになると、懐疑的な見解が多い。
4月4日の化学兵器使用の報告があった後、米英仏の常任理事国3か国は、化学兵器攻撃を非難し、化学兵器禁止機関(OPCW)の事実調査団に対して調査結果を早期に報告するよう要請する安保理決議案を用意していた。この調査は2015年8月に設立されたOPCWと国連による共同調査メカニズム(JIM)によって行われてきたシリアにおける化学兵器使用の有無をさらに調べるものであった。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由 聖書と冷戦が生んだ米国とイスラエルの同盟
東洋経済オンライン / 2024年7月17日 9時0分
-
トランプ氏が痛烈批判 バイデン氏の「弱腰」外交に根強い懸念 中朝露などの増長招いた
産経ニュース / 2024年7月14日 12時0分
-
国連安保理、北朝鮮への武器供与巡り対立 中国も米に反論
ロイター / 2024年7月1日 9時7分
-
イランの核武装への兆候か? イスラエルとの初交戦と大統領墜落死が示すもの
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月27日 12時40分
-
「トランプ陣営の世界戦略がさらに明るみに」その3 中国こそが最大の脅威
Japan In-depth / 2024年6月27日 11時0分
ランキング
-
1米国初の女性・アジア系大統領を目指すハリス氏、手腕には厳しい評価も
産経ニュース / 2024年7月22日 19時11分
-
2バイデン氏の撤退決断、米主要紙が評価 「勇気ある選択」「米国の最良の利益」
産経ニュース / 2024年7月22日 19時34分
-
3北朝鮮エリートの脱北ラッシュ、なぜ外交官なのか…海外生活で「目覚めた」
KOREA WAVE / 2024年7月22日 16時30分
-
4南シナ海で「屈服せず」 比大統領、緊張緩和模索も
共同通信 / 2024年7月22日 22時59分
-
5バイデン氏大統領選からの“撤退表明” トランプ氏「いんちきジョーは最悪の大統領」とSNS投稿
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月22日 11時43分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください