ジャカルタ知事選 宗教か多様性か
Japan In-depth / 2017年4月21日 19時0分
こうした事態を重視したジョコ・ウィドド大統領、ユスフ・カラ副大統領、そして首都の治安を守る治安組織のトップなどが相次いで「宗教を選挙の争点にするべきではない」「候補者の宗教、人種、出身地は選挙とは無関係」などと宗教の選挙争点化の火消しに躍起とならざるをえない事態を招いた。
■アニス氏の夢のような公約への期待
アホック知事はキリスト教徒で地方出身の中国系インドネシア人、と首都ジャカルタの知事としては「異例のマイノリティー」で、そうした知事を選んだことがジャカルタっ子の「多様性と寛容」の意気の現れ、とされてきた。
ところがあらぬところ(イスラム急進派)からのビーンボールに近い「攻撃」に加えて、「頭金ゼロでも住宅購入が可能」という自宅を所有できない多数の人々には夢のような公約を掲げたアニス候補に票が流れた。これまでの実績や地味な洪水対策などより「自宅が持てるかもしれない」との公約に期待するという極めて現実的な選択を有権者はしたのだ。
選挙結果をみた多くのコメンテーターや新聞は「任期の5年間で公約を実現できるのか、とりあえずお手並み拝見」との姿勢を示しているが、住宅問題の公約はその実現を疑問視する声も少なくない。
住宅問題はジャカルタの人々にとっては食に次いで関心が高く、首都ゆえの地価、建設費の高さから賃貸ではない自宅を持つことが現状では難しく、アニス候補の公約はまさに「夢に手が届く魔術」に聞こえた。実際には一定額の銀行預金がある人に限り「頭金ゼロ」が適用されるのだが、選挙期間中はそうした詳細より「頭金ゼロ」が独り歩きしてしまった。それだけに今後アニス新知事の住宅問題への取り組みには大きな注目と厳しい目が注がれるだろう。
■大統領選の代理戦争の様相
19日夕方に記者会見したアニス候補の横にはグリンドラ党のプラボウォ党首の姿があり、アニス候補より雄弁に勝利宣言を行った。会場に詰めかけた支援者からは「いよー、プラボウォ次期大統領」との声がかかる一幕も。
プラボウォ党首は1998年に崩壊するまで実に32年間、独裁政権を維持したスハルト元大統領の元女婿で国軍出身のビジネスマン。現職のジョコ・ウィドド大統領とは前回の大統領選を争ったライバルでもある。
アホック知事はジョコ大統領が所属する与党「闘争民主党(PDIP)」の支持を受けており、今回の知事選は前回2014年の大統領選と同じ対立構図であり、さらに2019年の次回大統領選の前哨戦と早くから位置付けられていた。
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