米ロシア疑惑 特別検察官は誤訳?
Japan In-depth / 2017年5月21日 9時56分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・トランプ政権ロシア疑惑で “special counsel”を任命。
・普通に訳せば「特別顧問」。司法長官管轄下の役職。
・ウォーターゲート事件時の「特別検察官」とは異なる。
■ロシア疑惑、司法当局が捜査
「ロシア疑惑 米特別検察官が捜査へ」(読売新聞5月19日朝刊一面)というように、大手新聞各紙はこのところアメリカのトランプ政権が昨年の大統領選挙でロシア政府機関と結託して投票を不正に操作したのかどうかという疑惑を司法当局が捜査するニュースを大々的に報道し始めた。今後もこの報道は続くだろう。
■捜査するのは「特別検察官」?
そこで一点、日本での報道をアメリカでの現地の実態をみながら眺めていて気づいた疑問を指摘しておこう。それは「特別検察官」という日本語である。時事英語にかかわってきた人ならすぐわかることだが、この日本語から連想される英語の原語は“special prosecutor”である。
だから日本の新聞の記事から判断すれば、今回、アメリカで任命されたのは “special prosecutor” のはずである。ところが違うのだ。任命されたのは“special counsel” なのである。この英語をふつうに訳せば、「特別顧問」となる。Counsel というのは顧問とか相談役という意味だからだ。日本語でもそのまま使われるカウンセラーという同義語を連想すればよい。この言葉自体には検察官という意味はまったく含まれてはいない。
■“special counsel”の正しい訳
アメリカ司法省の5月17日の発表文をみよう。英語から日本語への直訳である。
「2016年の大統領選挙へのロシアの介入とその関連事項を操作するための特別顧問の任命」
「司法副長官は司法長官代行としてロバート・モラーを特別顧問に任命する。モラーはアメリカ司法省の特別顧問として昨年の大統領選に関してロシア政府とトランプ選挙陣営の個人との関係などについて捜査する権限を与えられる。同特別顧問はこの捜査の結果、連邦法に違反する犯罪があったと信ずるならば、その犯罪を刑事訴追する権限をも与えられる」
以上のように「特別顧問」は刑事事件の捜査をして、起訴をする権限も有するのだから検察官と呼んでもまちがいではないだろう。
ところが日本の大手新聞は1973年のニクソン政権時代のウォーターゲート事件のアーチボルド・コックス特別検察官と今回のモラー氏を同列において、しきりと比較している。この点には事実認定のミスがある。
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