福島県いわき市の医療崩壊
Japan In-depth / 2017年5月26日 19時30分
医師がいないため、脳卒中を含む神経系疾患の約30%がいわき市外で治療を受けている。
どうすればいいのだろう。対策は簡単だ。いわき市内に医師を集め、救急外来を開設するのがいい。
■いわき市で気を吐く「ときわ会」
実は、いわき市内で救急医療に力を入れようとしている医師たちがいる。ときわ会グループだ。泌尿器科医である常盤峻士会長が設立し、透析医療を中心に成長してきた。2010年4月に市立常磐病院を譲渡され、総合病院も経営するようになった。
その一年後、東日本大震災を経験した。このとき、約600名の透析患者を東京・新潟・千葉県に避難させた。私もお手伝いしたが、見事なチームワークだった。
東日本大震災での大活躍でときわ会の知名度は一気にあがった。「ときわ会で働きたい」と全国から若き医師や看護師が集まった。日経新聞は2016年7月3日に「医師の都市集中歯止め?」という記事の中で、ときわ会の取り組みを成功事例として紹介した。
私どもの研究所の関係者からも複数の医師・看護師が就職した。
森甚一氏(血液内科)のように、首都圏の大学病院の「センター長」のポジションを断って就職した医師もいた。(関連記事)
今春には、徳島県立中央病院の院長を辞した永井雅巳氏が、在宅医療部門に移籍した。永井氏の経営手腕は医療界では知らない人がいない。さらに、私も昨年3月に東大医科研を辞してからは、ときわ会の非常勤医師となった。震災時8名だった常勤医師は現在24名に増加している。いわき市内の病院で、震災後医師が増加したのは、ときわ会だけだ。
この結果、240床の病床は常に満床だ。一般病床の稼動率は90%を超える。新村浩明院長の悩みは「医師がいても、入院させる病床がないこと」だ。
新村院長たちは救急医療にも力をいれてきた。2015年4月には救急専門医である岩谷昭美医師も赴任した。昨年は1216件の救急車を受け入れており、2014年度の750件から急増した。
いわき市内の救急医療の中核は、磐城共立病院だ。三次救急を行い、2014年度は4271台の救急車を受け入れた。前出の新村院長は「この地域の医療を守るには、関係者が協力しなければなりません。磐城共立病院の負担を下げるためにも、我々が二次救急の患者を受け入れる必要があります」という。
さらに、新村院長は「病床があれば、脳卒中の患者さんにも対応したい」ともいう。福島県内の病院長は「もし、ときわ会が脳卒中センターを開設するなら、是非、脳外科医を紹介したい」と言う。いわき市民にとって有り難い話だ。ところが、話は簡単には進まない。それは、常磐病院の病床が増やせないのだ。
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