福島県いわき市の医療崩壊
Japan In-depth / 2017年5月26日 19時30分
■病床が増やせないわけ
厚労省は医療費を削減するため、入院病床を削減し、在宅医療に誘導しようとしている。2025年までに全国で11.6%、福島県で28.4%の病床が削減されると予想されている。
我が国では病院は勝手に病床を増やせない。厚労省の許可がいるのだ。病床は貴重な経営資源であり、どの病院も削減には応じたくない。
いわき市内の多くの病院の病床稼動率は低い。例えば、磐城共立病院は病床数761床(うち一般709床)だが、一日平均入院患者数は547人(2014年6月分)だ。福島労災病院も状況は変わらない。病床稼動率は75%だ(2015年度)。常識的に考えれば、磐城共立病院や福島労災病院の病床を常磐病院に譲る、あるいは売却すればいいだろう。ところが、この話は一向に進まない。
いわき市の職員は、その理由を「ときわ会に対する嫉妬」という。私が知る限り、いわき市民の多くはときわ会を高く評価している。医療関係者の中でも、ときわ会に好意的な人は少なくない。いわき市内で開業する医師は「このままではいわきの医療はジリ貧です。ときわ会のような元気なグループが、この地域が生き残るために必用です」という。ただ、業界団体がまとまると、「一人勝ちを許さない護送船団方式」となってしまう。福島県やいわき市の行政は彼らの意向を忖度する。
■行政に求められる「市民目線」
私はこのような土壌こそ、福島の復興が進まない本当の原因だと思う。福島県もいわき市も市民目線で考えず、強力な政治力を有する業界団体の都合を優先する。地元紙は、知っていながら、一切報じない。この結果、市民は問題点に気づかない。
有望な病院経営者は、やがて県外に進出する。郡山を拠点にする南東北病院など、その典型だ。2012年には、220億円を投じ、川崎市に新百合ヶ丘病院(377床)を開業した。2018年9月には大阪の難波に「大阪なんばクリニック」を開設する。ときわ会も、このままでは、早晩、いわき市から重点を移すことになるだろう。福島県民にとって、それでいいのだろうか。
いわきの医療は崩壊しつつある。待ったなしだ。地域で情報を共有し、市民目線で議論しなければならない。
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