米・パリ協定離脱で国際情勢不安
Japan In-depth / 2017年6月7日 7時0分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#23(2017年6月5-11日)
【まとめ】
・トランプパリ協定離脱、国際安全保障情勢が不安定化する恐れ。
・ロンドンテロ、6月8日総選挙の行方に注目。
・サウジら4か国カタールと断交、驚くに足らず。
今週筆者が最も注目したのは、日本が中央アジア5か国国民に対しビザ発給要件を緩和するという、地味ながら、実は極めて重要と考えるニュースだ。5月に開かれた第6回「中央アジア+日本」外相会合の際に発表したものだという。
対象はカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの一般旅券所持者で、5日から短期滞在ビザの発給要件を緩和するそうだ。以前から中央アジアが重要と主張してきた筆者はこれを高く評価する。
外務省HPによれば従来の商用、文化人・知識人への短期滞在数次ビザの発給対象者の範囲を拡大するとともに、最長有効期間を現行の3年から5年に延長。更に、自己負担渡航の短期滞在ビザも身元保証書等の提出書類を省略する。
中央アジアは今もロシアに近く、日本にとっては遠い国々だが、中国のウイグル自治区にも近く、日本が戦略的に押さえておくべき重要な地域だ。これで中央アジア諸国との人的交流が一層活発化されれば良いのだが・・・。
もう一つ気になるのはトランプ政権のパリ協定離脱の余波だ。この問題を考えていたら、1919年のベルサイユ講和条約に規定された国際連盟に米国が不参加表明したことを思い出した。
パリ協定と国際連盟は時代も国際環境も異なる事件だが、筆者は「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という英語の格言を思い出した。ちなみにこの言葉は米作家マーク・トウェインのものと言われるが、どうも違うらしい。
二つの事件での米政府の動きに歴史的な押韻はあるのか。理想主義的民主党大統領の国際主義的提案を、米国の伝統的孤立主義的思想の強い共和党政治家が葬り去る姿は、百年前と同じだ。詳しくは今週の産経コラムを読んでほしい。
とにかく、再びトランプ砲が炸裂してしまった。長年地球温暖化問題に取り組んできた欧州諸国から厳しい批判の声が上がり、米国内でも民主党関係者に加え、共和党の一部にすら反発が広がっている。
筆者の関心事は、米国のパリ協定離脱により、一世紀前の国際連盟不参加と同様、国際安全保障情勢が混乱・不安定化する恐れはないか、という点だ。今後米国の国際的信頼が風化し始めれば、70年間の国際的安定も風化しかねない。
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