陰謀説の読み方① 「ロシア疑惑」は事実か?
Japan In-depth / 2017年6月30日 0時20分
そのうちウワサだけはどんどん広がっていく。いわゆる未確認情報である。どんなにその情報が広がっても未確認のまま報道するわけにはいかない。そのうち2日ほどすると、中国政府外交部があっさりと金正日訪問を認めてしまった。まさかと思うウワサが実は真実の大ニュースだったわけだ。
この種の未確認情報に振り回されるという経験は新聞記者ならだれでもあるだろう。とくに日本人ジャーナリストにとって言葉の壁や政治や文化の壁のある外国での報道活動のプロセスでよく起きる。
未確認のまま報じて、事実でないと判明すれば、大誤報となる。報じないままでいれば、競争相手の記者たちに報道されてしまうという恐れがある。この種の情報が不透明のままというのは当局がそれを隠そうと、少なくとも当面、必死で報道管制を実行していたから、というケースも多い。
それとはまたまったく異なる形で記者たちを振り回し、いらいらさせる未確認情報の一種として陰謀説というのがある。私自身もずいぶんと悩まされてきた。ときにはその被害者や犠牲者になったこともある。
陰謀説とは平たくいえば、なにか大きな出来事が起きた場合、その原因は表明に出た状況とは異なり、実は秘密裡に特定の複数の組織がからみ、共謀してその出来事を起こしたのだ、と断じる「説」である。「説」という名の未確認情報だともいえる。秘密裡の動きであり、「説」だから、その真偽の証明は難しい。
「説」ではなくて、実際の陰謀というのももちろん実在する。陰謀とは一般には「ひそかにたくらむはかりごと」という意味である。二人以上の人間や二つ以上の集団、組織がなにかの行為を働こうとする、つまり謀議する、ということだろう。こうした意味での陰謀は現実にいくらでも存在する。
だが陰謀説となると、存在するのか、しないのかわからない陰謀があるのだと断じたり、ほのめかしたりすることになる。陰謀が実在するのかどうかわからない。だが実在するかもしれない。だからその段階では単に「説」であり、意味や実態は実際の陰謀よりもずっと濃い霧のなか、ということになる。
(「②陰謀はいつもそこにあった」に続く。全4回。この連載は雑誌『歴史通』2017年1月号に掲載された古森義久の論文「歴史陰謀説は永遠に消えない」に新たに加筆した記事です。)
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