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陰謀説の読み方④ その弊害にどう立ち向かうか

Japan In-depth / 2017年7月5日 9時0分

パイプスのその書によると、陰謀説はさらに以下のような、誤った前提を設けている場合が多い。

「人間集団のすべての目標は権力獲得にある」

「ある事象から利益を受ける勢力がその事象を支配する」

「物事の外見は常に偽りだ」

「何事も偶然や失策からは起きない」

だから陰謀説の識別にはこうした前提や特徴を指針として使い、ごく基本の常識や歴史の知識をその陰謀説の内容がウソか真実かの判断の材料にすればよいということになる。

同書は陰謀説の生まれる理由に関して、陰謀説の標的となるユダヤ民族や米英両国には近代性と民主主義、理念先行主義という基本志向があることを指摘して、こうした志向への反発が強い土壌にこそ陰謀説が生まれやすいと説いていた。

陰謀説は民主主義の成熟と相関関係にあり、市民の政治参加、法の統治、言論の自由などが進む社会ほど生まれにくい、というわけである。

この基準に従うと、政権与党の有力幹部がアメリカの9・11テロについての陰謀説を容易に振りまくわが日本も民主主義の成熟はまだまだ、ということになってしまう。

 

■「陰謀説」の弊害

パイプスはこの自書の総括として陰謀説がもたらす弊害を列記していた。

「陰謀説は幻想や迷信、被害妄想をあおり、不健全な理由づけを奨励する。複雑な事態を陰謀へと矮小化することで歴史の流れの理解を妨げる。自国内部の害悪の原因を外部にシフトすることで真の原因の正確な評価を阻み、問題への対処を遅らせる。一般国民にそもそも危害を及ぼしはしない対象を恐れさせ、憎ませる一方、危害を及ぼす対象への恐怖や憎悪をなくさせる。国民の注意を問題とは無関係な対象に向け、重要な対象を無視させる」

かなり過激な指摘ではあるが、私たちが今後ますます混迷や混乱を増す世界に向かって自分自身の利益をきちんと守りながら立ち向かっていく際には念頭に入れておいても決して損はしない警告だと感じる次第である。

(了。全4回。①、②、③も合わせてお読みください) 

この連載は雑誌『歴史通』2017年1月号に掲載された古森義久氏の論文「歴史陰謀説は永遠に消えない」に新たに加筆した記事です。

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