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一国主義への揺り戻しか 英仏総選挙が示すもの 上

Japan In-depth / 2017年7月6日 7時0分

というキャンペーンを展開し、これが意外なほど広く支持を集めたのである。


たしかにメイ首相は、キャメロン内閣時代は内相として緊縮財政の旗振り役であった。


今時の総選挙に際しても、EUからの移民の制限を優先し、そのためなら単一市場からの撤退も辞さないというハード・ブレグジット(強行離脱)の路線と並んで、マニフェストの柱としたのが財政の健全化=緊縮財政であった。


結果論だが、これはいかにもまずかった。


緊縮財政によって格差が広がり、福祉がやせ細っている、というコービン労働党のキャンペーンに、わざわざ説得力を持たせてしまったのである。


悪いことは重なるもので、当初メイ首相は、緊縮財政の一環として、高齢者の在宅介護の費用負担を見直す、という政策を掲げていたのだが、英国メディアから「認知症税」などと酷評されて袋叩きに遭うや、早々に政策転換してしまった。


ハード・ブレグジットにせよ、もともと彼女は前述のようにキャメロン政権の内相で、立場上致し方なかったとは言え、EU残留キャンペーンに加わっていた。


それが、国民投票でEUからの離脱が決まると、たちまち離脱派に鞍替えして保守党の党首選を制した。多くの有権者の目には、


「自分で言うような、強い信念を持ったリーダーではない」


と映ったに違いない。


この点、労働党のコービン党首はと言えば、もともとEUとの協調を重視する中道右派ではなく、一貫してより左翼的な陣営に属し、英国の労働組合運動がEUの諸規制を受けることに反対していた。総選挙に際しても、


「英国の雇用が守られる形での離脱を目指す」


と言い続けていた。


とどのつまり、日本の一部メディアが報じたような「EUからの離脱の是非」など、最初から争点でもなんでもなかったのである。保守党・労働党ともに、EUの結束より英国の主権を優先すべし、という点では一致していたのだから。


かくして、保守党の優位がどんどん崩れてゆく中、マンチェスター、そしてロンドンでテロが相次いだ。


これがまたしても、労働党を利することになった。メイ首相が緊縮財政でもって警察官を2万人削減したことを槍玉に挙げ、


「安上がりな方法で市民の安全は守れない。労働党政権になったら、すぐに(警察官を)1万人以上増員する」


とのキャンペーンが張られたのである。


国民投票から1年を経て、EU離脱問題は早くも後景化の様相を見せ、有権者の関心は財政と福祉との兼ね合いや、直近のテロ対策に移ってきたーーこれこそ、今次の総選挙の背景で、メイ首相の最大の誤算とは、英国民が今でも反EUナショナリズムの熱気の中にいると思い込んだことにあった。


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