劉暁波氏の死で変わる米対中政策
Japan In-depth / 2017年7月17日 7時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・劉暁波氏の死で中国の非人道的措置に対し、米で一斉に非難の声。
・中国は膨張主義により国際秩序を崩そうとしていると米メディア指摘。
・日中関係を考える上で重要な指針となろう。
ノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家、劉暁波氏の痛ましい死がアメリカの官民を激しく揺さぶった。中国政府の非人道的な措置を一様に非難する広範で激烈な反応だった。
民主主義を主張しただけの人間を懲役11年の刑に処し、獄中での彼の病気の悪化を無視し、外国での治療を求めた彼の最後の願いをも拒否するという中国共産党政権の措置は、人間の尊厳の基本を踏みにじったといえよう。アメリカでの反応もまずその部分への鋭い非難だった。
だがアメリカでの論調ではそうした人道主義のレベルでの非難を越えて、今回の出来事こそ中国という国家の国際的な危険性、無法性を実証するのだ、というグローバルな視点からの警告も目立つ点が顕著だった。
わが日本にとってもこの種の国際的な視点からの中国への再考こそ重要だろう。
最近の中国はグローバル・パワーとしての拡大が顕著である。習近平国家主席の主導の下に「中国の夢」「平和的発展」に始まり、「一帯一路」とか「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」など、壮大に響く標語での国際構想を打ち上げている。日本でも中国のこの構想に加わるべきだという意見もある。
だがたとえ「国際協調」「グローバル化」という概念の下に中国に寄り添うという道を選ぶにしても、この新グローバル・パワーともみえる中華人民共和国という国がどんな本質なのかを知ることが欠かせまい。その本質を明示したのが今回の劉暁波氏の死なのである。
こうした点に焦点を合わせたアメリカ側での論評の一つを紹介しよう。アメリカの大手紙のウォールストリート・ジャーナルが7月13日付社説で打ち出した意見である。
同社説は「中国のノーベル賞での空席」という見出しだった。劉氏が2010年にノーベル平和賞の受賞者となったとき、本人は中国の刑務所にいて、その受賞式には出られなかった。もちろん中国政府が禁止したからだ。
同社説はその点にまず触れて「空席」という言葉を使ったわけだ。そのうえで「ノーベル平和賞の受賞者のうち獄死したのは劉暁波氏以外にはただ1人、ドイツのカール・フォン・オシェツキー氏だけだった」と強調していた。
オシェツキー氏はナチス・ドイツに迫害された言論人で、1935年にノーベル平和賞の受賞者となった。だが彼は当時のドイツ政府の政策に反対を表明して、国家反逆罪などで強制収容所にすでに入れられていた。受賞式には出席できず、その3年後の1938年には肺炎が原因となって獄中で死亡した。
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