日米繊維交渉“善処します”誤訳伝説 その2
Japan In-depth / 2017年8月20日 23時56分
首脳会談に先立ち事務方同士で大枠が決まることが多いが、若泉によれば、佐藤・ニクソン会談では、若泉とキッシンジャーとの事前の打ち合わせで、首脳同士が合意するとの詳細なシナリオができていた。
つまり首脳会談では、ニクソンが繊維問題を取り上げ、佐藤が
①日米2国間でジュネーブで本格的な交渉を始め、具体的な協定として煮詰める必要がある。合意達成の期限は今年末までとする
②包括的な規制の考えを実現したい。その内容の協定を、責任を持って作成する
③この2国間協定は「極秘」とする
④これは2国間だけで終わらず、関税貿易一般協定(GATT : General Agreement on Tariffs and Trade:ガット 筆者注・WTO=世界貿易機関の前身)の多国間会議で決める
などと述べるシナリオだった。
11月21日に実際にこのキーワードは登場したのか。日本側の公文書によれば、佐藤首相は次のように述べた。
「沖縄問題と本件がからみ合ってくることはなんとしても避けたい。(中略)ジュネーブで行なわれている話合いに関し、外部に発表する意図はないが、12月末までに話をつけ、その上ではっきりした形で約束する。そこでもし、問題があったら、大統領から直接下田武三大使(写真3)(筆者注:当時の駐米大使)を招致し、話していただきたい。申すまでもなく自分は、このことにつき十分責任を取る用意がある」
写真3)下田武三氏 出典:最高裁判所HP
「12月までに話をつけ、その上ではっきりした形で約束する」とは、2段階にわたる手続きのようでやや分かりにくい日本語だ。重要なのは、米側に英語でどう伝わり、記録されたかである。とりわけ英語の「約束」の意味合いを持つ単語が米側の公文書ではいかに記録されているのであろう。
英語の公文書を筆者が翻訳すると、上記に相当する部分はこうなる。
「彼(筆者注・佐藤総理)は大統領に対し、沖縄に関係する“寛大な”決定および沖縄と繊維を個別に扱うことにも同意されたことに深い感謝の意を表した。正にこの理由で、彼は繊維に関して自身の深い責任を強く感じた。(中略)何よりも、大統領との合意は“完全に秘密”としメディアに発表すべきではない。12月までに、しかしながら、この問題は解決されることを彼は約束した(原文は promised )。
彼は大統領に対し、いかなる問題が発生しても下田大使と自由に話し合うよう促した。彼は大使にはとるべき措置については詳細な説明を行っている。彼は大統領に対し解決策に達するために十分な責任を取ることを誓約した(同 pledged )」。
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